第2話 俺はハンバーガー店で、嫌な奴と…
幼馴染のことはそんなに好きじゃない。
美少女が隣にいるのに、そういったことを考えるのはよくない。
それでも、幼馴染のことが脳裏をよぎる。
そもそも、幼馴染は昔、そんなに嫌な奴ではなかった。
高圧的な態度を見せる奴でもなかったし。
高校生になってから、色々と変わってきたところがある。
理由がわかれば和解したいとは思っているが、その原因が不明瞭だと手厳しい。
でも、どうすればいいんだろ……。
それに関しては悩むところである。
下手に話しかけても関係性が崩れるというか。
現状崩れているゆえ、何をしても変化はないだろうが、何もわからない状況では、自発的に行動には移せなかった。
だがしかし、関係性を修復するなら、いい提案が欲しいところだ。
どんなことをすべきなのだろうか。
実のところ、自ら行動して、どうにかなるものなのか?
幼馴染の
「ね、そんなに難しい顔しないで。ちょっと、あっちによって行かない?」
ふと、隣にいる彼女から話しかけられる。
玄は隣を一緒に歩いている彼女へと反応を返すように視線を向けた。
街中では結構有名な店舗であり、学校帰りの人らがよく立ち寄っていくオアシスのようなところだ。
比較的安い価格で提供していることで、学生からの一定の評価も獲得していた。
財布にも優しいのは、お客目線であり。
夕方の今、入店するのには、ちょうど良いタイミングだろう。
「ちょっと、お腹とか空いているでしょ?」
「まあ、そうだね」
玄は腹をさする。
今日の昼休みは、日直の件もあって、ほとんど食べていなかった。
ハンバーガーであれば、夕食に響かない程度に、お腹の減り具合を満たせるはずだ。
疲れているからこそ、気分転換に、そういったファストフードを食べるのもいいだろう。
二人は、そのハンバーガー店へと向かっていく。
「ねえ、クロって、どんなものが好きなの?」
「それは……」
玄は店内のレジカウンター近くに立てかけられたメニュー表の看板を見やった。
そこには数々のハンバーガーのメニューがある。
基本的なハンバーガーや、チーズバーガー。
店屋限定のメニューなど、色々である。
何がいいのか、選んでいる時が何気に一番楽しかったりするのだ。
「夕さんは、普段、こういうところで何を注文してるの?」
「私は、普通のハンバーガーとか、あとは、テリヤキとかかな? まあ、テリヤキとかは昔っから好きなんだけどね」
夕は愛想笑いを浮かべ、看板メニューの写真を指さしながら言う。
彼女がよく好んで食べているハンバーガーも魅力的。
今日はそういったハンバーガーにしてみようかな。
玄はそんなことを思いつつ、彼女と同じものを選ぶことにした。
美少女と付き合えているのだ。
ここは同じものを選んだ方が、距離が近づくというもの。
二人はレジカウンターへと向かい。そこで商品を選び、女性スタッフに告げる。
会計を済ませた後は待ち番の札を持ち、テーブルの方へ移動し始めるのだった。
テーブルに向かって歩いている際。
どことなく見知った子と、店内でバッタリと遭遇する。
まさか……。
嫌な予感がする。
玄はふと顔を上げ、正面にいる女の子を見やった。
「……なッ、なんで、あんたがここにいるのよ」
やはりと思ってしまうほどに、聞きなれた声が、玄の耳に響く。
「それは、俺の言い分なんだけど」
気づけば、そこに佇んでいたのは、幼馴染の七野加奈だった。
なんで、ここで?
そんなことを思った。
今すぐにでも逃げ出したくなってしまう。
「気分悪いんだけど」
加奈から拒絶された感じに、嫌みな発言をされる。
「ん……というか、なんで、その子と一緒にいるのよ」
加奈が指さす先は、玄の隣にいる有村夕。
学校一の美少女である彼女と一緒にいるのが悪いみたいなニュアンスで言われたのだ。
「クロが困っているようだったし。それで一緒に街中に行こって、私の方から誘ったの」
夕はことの経緯を淡々とした口調で説明する。
「そ、そうなの」
加奈は動揺していた。
普段は関わることのない二人の間柄が気になってしょうがないといった視線を、加奈は見せていたのである。
「私には、遊びに誘わないくせに……」
彼女はボソッと何かを口からセリフを零す。
「な、なに?」
玄は聞き返すのだが。
「な、何でもないし」
加奈は怒っているようだ。
やっぱり、和解とか無理か……。
玄は諦めがちな思考回路に陥っていた。
「ねえ、一緒に食べる?」
夕が、現状の空気感を察したのか、そんな話題を振ったのだ。
「別に……私、そういうのいいし」
幼馴染は二人から視線を逸らすように、不満げなセリフで否定する。
「でもさ」
夕は咄嗟に言葉を切り出す。
そして、加奈の隣に歩み寄っていく。
「というかさ」
夕は幼馴染の隣で、耳元で囁くように話していた。
「別に、そういうわけじゃないし……」
二人でひっそりと公言できないことについて、やり取りをしているように思える。
何を話しているのだろうか?
そんなことが気になってしょうがなかった。
「じゃあ、一緒に食事する?」
「でも、別に私、そういうの求めてないし。というか、そういうの、おせっかいじゃん……」
「そうかな? でも、本当はさ――」
「べ、別にそういうのは口にしなくてもいいからッ」
加奈は少々声を大にして言う。
それにしても、どこか仲がよさそうに思えるのだった。
少々、モヤっとしてしまう。
二人はそんなに仲が良かったか?
そんな印象を受けるも、玄は二人の女の子の様子を伺うことしかできなかったのだ。
「ね、あなたは何を注文したの?」
「普通の奴」
「ハンバーガーの?」
「そうよ」
三人は店内の同じテーブルに座っている。
そんな中、夕の方から加奈へ、色々と質問攻めをしていた。
「というか、あんたさ、そういう余計なことをしなくてもいいから」
幼馴染はムスっとした表情を見せていた。
「別にいいじゃない」
夕は平然と言ってのけている。
何について、先ほどから話しているのだろうか?
気になる。
「なんの話?」
「それは内緒」
夕から意味深な感じの返答が返ってくる。
「そうだから。というか、あんたには関係ないじゃない」
二人の女の子から、なんの話かについては聞き出せなかった。
なんなんだ?
どういった内容なのだろうか?
「十四番の方――」
遠くの方から、女性スタッフの呼びかけの声が響く。
すると――
加奈との会話を終わらせ、夕がその場に立ち上がる。
「私、とってくるから。二人は待っててね。それと、加奈の分も」
夕は早口で言う。
すると、彼女はそのまま、レジカウンターのところまで颯爽と向かって行った。
玄と加奈と、二人っきりになったのである。
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