幼馴染から嫌われている俺が、学園の美少女と関わるようになったら、幼馴染の様子が変わったのだが⁉

譲羽唯月

第1話 幼馴染から嫌悪感を抱かれているんだが、なんで…

「あんたさ、なんで見てんの」


 放課後。

 誰もいなくなった教室内。

 そこに、二人がいる。


 ショートヘアスタイルな幼馴染――七野加奈ななの/かなは玄と向き合うようにして佇んでいた。

 その視線はゴミを見るようなものである。


「別に、見てないし……」


 鈴里玄すずり/くろは視線をそらして言った。


 元々はこんな関係じゃなかったのになと思う。


 人生の流れというのは怖いものである。


「……あっそ」

「というか、自意識過剰じゃん……」


 玄はそう言った言葉で切り返してしまった。

 小さく呟いたはずだったのだが……。


「どういうことよ」


 加奈から拒絶のような視線を向けられる。

 彼女に聞こえてしまっていたようだ。


 また、心がキュッと締め付けられるようだった。


「何でもない。気にするなって……」


 玄は溜息を吐くように返答した。


 やはり、先ほどの一言が余計だったのかもしれない。

 そう思うと、頭を抱えたくなってきた。


 幼馴染とは仲が悪い。

 高校生になってから距離を感じていた。


 中学の頃までは仲が良かったものの、不思議と敵意を向けられる始末。


 何をしたっていうんだよ……。


「ねえ、あんたさ」


 加奈の方から話し始めた。


 何を言われるのか、想像するだけでも悍ましい。


「な、なに……?」


 玄は聞き返す。

 そして、恐る恐る彼女の様子を伺う。


 あまり関わりたくなかったものの、無視というのもまた面倒なのである。

 適当に彼女と話を合わせることにした。




「別に……何でもないし」

「じゃあ、なんで話しかけてきたんだよ」

「別に……」


 加奈は言葉を濁している。

 どこか隠しているような、そんな話し方だ。


 ハッキリとしないやり取りが、さっきから続いている。


 先ほどまで、彼女とは一緒に行動していた。

 自ら行動したかったから共にいただけではない。


 担任教師から日直という闇のゲームのようなものを言い渡され、それに忠実に従い、作業していただけである。


 作業に区切りがついた今、ようやく帰宅できると思ったのに。

 まさか、彼女と、こんな面倒なやり取りをすることになるなんて。


 玄が彼女の様子を伺っていると――


「というか、あんたとは別に関わりたくて、日直をやったわけじゃないから」

「なんなんだよ」


 本当に意味が分からない。

 玄も、幼馴染と関わりたくて、日直なんてやりたくないのだ。

 担任教師から押し付けられたからこそ、やっているだけ。


 ……もしかして、俺の方に非があったのか?


 そういうことであれば、少しでも言ってほしい。


 もしも、自分の方に非があるのなら、そういったところを知りたかったからだ。


 加奈は他の人に対しては、普通に素直に対応している。

 なのに、玄にだけ手厳しいのだ。


 そんなことを思っていると、気づけばまた彼女から睨まれていた。


 高校生になってから、関係性がぎくしゃくしているのは、いつものことだが。

 それでも、ずっとこのままの関係とか嫌である。


 加奈は意味不明なほどに、玄に嫌悪感を抱いているようだ。


 もしかすると、普通に嫌われているということなのだろうか?


 でも、何をしたんだ?


 過去の自分の出来事を、玄は振り返っていた。

 が、何も思い当たる節が見当たらない。


「私、帰るから」


 加奈は、自身の机にあった通学用のバッグを手にすると、背を向け、教室を後にして行く。


 彼女がいなくなったことで、何とか精神的に助かった。

 これでひとまず心が楽になる。


 玄も早く帰宅しようと思い、通学用のリュックを手に、教室を後にするのだった。






「はああ……なんか疲れた」


 幼馴染と離れられたことで、今日中、目一杯に蓄積された疲れがドッと玄の体を襲う。


 そんな中、玄は廊下を歩いている。


 部活や帰宅などで、校舎から八割方、校舎から皆、立ち去っているのだ。

 グランドや、別校舎から人の声がする程度で、玄が歩いている廊下には誰もいない。

 誰かの気配すらしないのだ。


「今日、これからどうしよっかな。普通に、家に直行するか……でも、普通に帰るのもつまらないしな……」


 誰もいないと思って考えていると。


「じゃあ、どっかに寄って、気分転換する?」

「ん⁉」


 突然の、背後からの問いかけに、ドキッとする。


 幼馴染の加奈とは違う、美少女感溢れる口調。


 そんな子から話しかけられていた。

 誰かと思い、隣を見ると、顔見知った感じの子が隣にいたことに気づいたのだ。


「⁉」


 その子を確認するなり、さらに驚き、心臓が飛び出そうになった。


 その子は、学校の中でもかなりの美少女――有村夕ありむら/ゆう


 茶髪でセミロング風な、そんな子から今、話しかけられているのだ。


「ねえ、私と付き合ってくれない?」

「付き合う?」

「そうだよ。気分転換感覚でもいいしさ」


 夕は玄の左腕をギュッと抱きしめてくる。

 ふわっとした胸の膨らみが、玄の腕を襲うのだ。


「う、うん……」


 というか、告白?

 いや、まさかな……。

 気を遣ってくれているだけ?


 色々な思いが混在する。


 それ以上に、おっぱいの温もりにどぎまぎしていた。


 あまり女の子経験が少ない玄からしたら、近距離で話しかけられているだけでも十二分に緊張してしまう。


 しかも今、玄の腕は、学校一の美少女から確保されている。

 すぐに逃れられない状況に、嬉しくもあり、困惑していた。


「じゃ、行こ」

「え? 本当に行くの?」

「そうそう」


 突然、遊びに誘われ、そして、今から街中に行くことになった。

 いきなりすぎて、返答に困る。


「君って、時間に余裕とかあるでしょ?」


 俺って、時間が有り余っているように思われているのか?


 たとえ、どういう風に彼女から思われていたとしても。

 幼馴染から理不尽な言い方をされ、夕のお陰で冷え切っていた心に安らぎが与えられた感じだ。


 急すぎるが、こういうのもいいかもしれない。


 玄は、夕から言い寄られ、内心、色々な妄想を膨らませる。

 そして、二人は学校を後にするのだった。

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