第21話 秋の夜更け。
俺は趣味で、エッセイや小説を書いている。
数は少ないが、俺にも、俺の書いた作品を楽しみにしてくれている読者がいる。
ヒカルも、今では、俺の作品を愛するファンになってくれていた。
俺は、自分のHPで、その読者の人達のために、読んでみたいお題のリクエストを募ってみた。
HPの書き込みに、いくつかのリクエストが書き込まれた。
それは、大概は、今までの俺のエッセイや小説の題名を書いて、こんな話が、また読みたいって感じのものが多かった。
その中で、ひとつの書き込みが目に留まった。
“香水…これで、話を書いてください”
書き込みのHNを見る。
ヒカルだった。
俺は、HPにはレスをせず、直接ヒカルに電話をした。
『もしもし、俺だ。明日からの休み、横浜に来いよ。ディズニー行こうぜ。』
『うん!元町のカフェにも連れて行ってや』
無理やり、明るい声を出しているのか?
俺には、なんだか涙声に聞こえた。
『どうした?なんかあったのか?』
『なんもあらへんよ。物悲しくなっただけやから…。秋の夜更けですから…』
ヒカルは、そう言っておどけてみせた。
『そっか…。なら、いいけどさ。何でも俺には隠さずに話せよ』
『判ってるって…。あたしは、ぢぢぃには何でも話しているやろ?あんまり話さんのはぢぢぃの方やんか…つまらんことは、よぅしゃべるくせに…』
『判った判った。俺が悪かった。そう言えば、お前、香水からのイメージで、俺の小説、読みたいの?』
『うん…。秋の夜更けやからね…』
ヒカルは、そう…何でも俺に話していた。
自分の生い立ち、今までの男達の話。
香水…。
この言葉だけで、ピンと来た。
『香水かぁ…。判った。それで書く。お前、泣かすために書いてやる。でも、もう過去の話だし、小説として読むんだぞ。ただ、辛くなったら、いつでも言えよ。HPには完成してからアップするし、お前は嫌なら、途中で書くのを止めるから…』
俺がそう告げると、ヒカルは、俺の言いたいことが理解できたようだった。
『別に、あたしのことを書かんでも…。ただ、あたしは香水にまつわる話が…』
俺は、ヒカルの言葉を遮った。
『お前よぅ…。今、昔の男を思い出して泣いていたろ?だから、俺が俺なりに、お前の過去を書いてやる。一緒にお前の過去を振り返るんだ。過去は過去。もう、これからは、俺だけを見ていろ…』
『うん…』
俺は、ヒカルと俺の為に、あえて、ヒカルの過去を書く。
そうすることによって、俺とヒカルのこれからを、もっと、強い結びつきにする為に…。
すべてのヒカルを俺に取り込み、すべてのヒカルで俺に寄り添う為に…。
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