第20話  いさかい。

仕事で横浜へ戻っていた俺は、些細なことでヒカルと喧嘩した。


いや、ヒカルにとっては、些細なことではなかったのだろう。



俺はヒカルの地雷を踏んで、喧嘩と言うより、一方的に、ヒカルが俺にぶちきれたのだ。



ラインで、俺の吐いた言葉の一言。


軽い冗談のつもりだった。


これが、ヒカルにとっては、最悪の言葉だったのだ。


 

“ぢぢぃ、最悪や・・・もう、しらん”



“え?怒った?ごめんごめん”



このラインを最後に、なんど、俺がラインを入れても返事は来ない。


俺は、必死でラインを送った。


“ごめん・・・怒らすつもりじゃなかったんだ。本当にあやまるよ”



それでも返事は来なかった。


いままでに無かったヒカルの態度に、俺は戸惑った。


横浜から戻り、ヒカルの店にも行けるような雰囲気ではない。


電話を掛けた。


『もしもし・・・』


『あんなこと、言われて、笑って許せるような、大人じゃないですから』



ヒカルは、その言葉だけ言うと、いきなり、電話を切った。



すぐに掛けなおすものの、電話に出ることは無かった。


俺は、ヒカルのブログへ行ってみた。


内容は、伏せてあるものの、ヒカルの怒りは、ブログの友達にも伝わって

いるみたいで訳も判らず慰めたり、彼である俺を責めていた。



(ちぇ…なんでこんなに怒るんだよ…)



俺は、俺にシカトするヒカルに、腹が立ってきた。


俺も、少し意地になって、連絡を2日間しなかった。


しかし、原因は俺のふざけた言葉。



このまま、ヒカルと自然消滅なんて、俺の気持ちが許さない。


それに、ぢぢぃの俺が生まれてはじめて本気で好きになった女だ。


どうしても別れることなんかできない。



『もしもし…まだ、怒ってる?』


意を決して掛けた電話に、ひかるは出てくれた。


『もう、怒っとらんよ』


俺は、へたな言い訳を少しした。


『もう、いいって…それに、本当は、言葉だけで怒ったんじゃない。ぢぢぃ、もしかして、他の女に会ってなかった?仕事だって言って、嘘ついて会ってなかった?なんか、そんな気がして…。訊くことも出来ないでイラついてたから…』


『なんだ、それは誤解だよ。他の女なんか会うわけないじゃん。でも、まぢ、悪かった。もう、2度と言わないよ。今度の休み、お前んとこ行っていいか?』


『いや…来ないで』


『あんだよ、もう,怒ってないんだろ?』


『でも、来ないで…』


『判ったよ…じゃ、電話切るからね』



俺は、怒ってなくとも、もう、ヒカルの心に俺はいないんだと思った。


悲しくて悲しくて、ただ、車の中で、うつむいていた。


どのくらいの時が経っただろう?


ラインが来る。


ヒカルだ…。



“休み、どうするの?”


返事を打つ。


“判らん・・・ひとりで、こっちの家にいるよ”



“こやんの?”


“え?”


“オイラを怒らせた罰ぢゃ!来て、世話をしろ!”


“え?”


“こやんの?来て…”


“行く”


その足で高速に乗った…。



 

久々に涙を拭ったヒカルを抱いた…。


身体を抱いて、心も抱いた…。


そして、俺も、ヒカルに抱かれていた…。







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