第18話  リゾート気分。



夏場ということもあり、旧盆を挟んだ前後の数週間は、ヒカルの店は忙しさのピークだった。


今年も、休みを返上で、店にかり出されているヒカルは、肉体的、精神的にも疲れがたまり、不機嫌極まりない。


「今度はいつ休めるんだ?」


「定休日までは、無理やな…」


月に一度だけある定休日だ。


「そっか…休み、どうしたい?どっか行こうか?」


「出掛けても疲れるだけやしな。ぢぢぃと一緒にのんびりするわ…」


俺と同じくインドア派のヒカルは、お出掛けよりも、自宅でまったりを選ぶ。


「せっかくの夏の休みなのに、いいのか?なら、近所のホテルに行こうか。お前はのんびり、ずっとベッドで過ごせばいい。ルームサービスを頼んでゆっくり風呂入って…」


「そうやな…ぢぢぃが世話焼いてくれるんだぞ…いいなぁ…行きたいな…」



定休日の前日、俺は、ヒカルの店の駐車場でヒカルの仕事が終わるのを待つ。


「やっと終わった~。疲れた~」


「おつかれ~。したら、行こうか…」


俺は、ヒカルの車に乗り換え、一度ヒカルの部屋へ戻り、車を置いて、歩いてホテルへ向かう。


「コンビニ寄って行こうや。ルームサービスばかりじゃ高くつくでな…」


以外としっかり者のヒカルの言葉に従い、コンビニで、焼酎と氷とミネラルウォーターを山ほど買い、ホテルへ入る。


「やっと、休みや。リゾートや…」


「これで不機嫌、ちったぁ治るな」


「ぢぢぃ次第やな」


「まぁ、のんびりしようや…とりあえず風呂入るか?」


「 うん…」


一緒にバスルームへ入り、ヒカルは化粧を落とす。


「バスタブには明日、ゆっくり一緒に入ろうな。半身浴しよう」


「うん、背中洗ってあげるよ」


「おぅ!でも、今日は背中だけでいいぞ。俺がお前、全部洗っちゃるから…」


背中を擦られたスポンジに、また、ボディーソープをつぎ足し、俺はヒカルの身体を隅々まで洗う。


まるで、乳飲み子を洗うように優しく泡立てて洗う。


乳とあそこからお尻にかけては、より丁寧に…。


「あん…」


少し、身体をよじるが、俺の言葉に我を取り戻すヒカル…。


「う○こばかりしてるから、けつの穴…頑丈になっちゃって…プッ」


「うっせぇよ!ぢぢぃ」


「あはっ…ぢゃ次は足」


バスタブに腰かけた俺は、俺の膝の上に、ヒカルの足を乗せ、片足づつ洗う。


足の指の間もよく洗う。


足の裏に、泡がついていると滑りやすいから、洗った右足をシャワーで流す。


「次は左…ここへ乗せろ」


と、俺は自分の右膝を叩く。


左足を俺の膝に乗せようとしたヒカルは、つい、うっかり、左足の甲をカランの蛇口にぶつける。


「痛ったぁ~!」


「バカだなぁ~。なんでぶつけるかなぁ…ぶつける方のが難しいのに…」


ヒカルの代わりに、痛がる足の甲を撫で、優しく洗った。


洗い終えたヒカルが身体を拭いているうちに、俺は自分の身体を洗い、ガウンを着て、ベッドに座るヒカルの所へ真っ裸のまま、隣に腰かける。


「足見せてみ。あぁ~あ…青タンになっちゃって…痛てぇだろ?」


「ぢぢぃのせいだぞ」


「バカだなぁ~自分でぶつけたんぢゃんか。しょうがないなぁ…」


俺は、ひかるの足の甲にキスをした。




シャワーを終え、ルームサービスを頼む。


ここのホテルはレストラン並みのルームサービスで、なかなか充実している。


二人は呑む為に、つまみになりそうな料理を選び、料理が運ばれてくる間に、俺はヒカルと俺の焼酎の水割りを作った。


「おつかれ~」


「おつかれ様。あぁ幸せや…何にもせんと呑めるんやな~」


さっきぶつけた足の痛みも忘れて、一口呑んだヒカルは上機嫌である。


「おぅ!好きな時、好きなだけ呑んで食って、好きなだけ眠ればいい」


「やったぁ~!!」


こんな事で、無邪気に喜ぶヒカルがとても愛しい。


「明日は朝起きたら、すぐに呑んでもいいの?まるでお盆かお正月みたいやな」


「つか、まだ世間では、ギリ、盆休みだぜ…って、休みで、俺と一緒の時は、いつも昼間から呑むぢゃねぇかよ」


「そっか…なんでやろな…ぢぢぃと一緒ん時はいつも呑めるなぁ。ぢぢぃ、めでたいからか?」


「バカやろ~。俺はお盆にお経唱える坊さんや正月の鏡もちじゃねぇぞ」


「あはは…ぢぢぃ、パゲだからそっくし…プッ…でも、ぢぢぃといると安心するから飲むんだよ…」



俺は柄にも無く照れて、テレビのスイッチを入れた。



「そうや!これ持ってきたんや。カラマヨのジャイアントコーン。ぢぢぃの好物やろ?」


俺の好きなジャイアントコーンを2粒、ヒカルは俺に食べさせる。


「んまいな!」


お笑いのチャンネルに変えて、半分ほど、グラスを開ける俺。


「うまいやろ?」


ヒカルも俺を見て、楽しげだ。


ルームサービスも届き、本格的に呑み出すふたり。


つまみのとりの唐揚げは、相変わらず、皮だけ食って、身は俺の口に押し込むヒカル。


「身も食え!」


「えぇやん、リゾートなんやから…」



俺より酒の強いヒカルは、ぐいぐい呑む。


お笑い番組を観て、笑いながら呑んでる俺の肩を叩くひかる。


「どうした?」


ヒカルは、空になったグラスを、黙って指差す。


「しょうがないなぁ…水割りくらい、自分で作ったっていいんだぜ」


俺は、そう言いながらも、ヒカルに水割りを作る。


「いつもはあたしが全部作るやん。今日はリゾートですから…」


「まぁいいか…明後日の仕事に行く時間までは、姫にさせてやるよ」


「えぇなぁ…最高やな」



ヒカルの喜ぶ笑顔は、俺をも幸せにした…。




ふたりで、たらふく食って、呑んで、時々、会話の合間にキスをした。


休み無しで数週間、働いていたヒカルは、疲れと安心感で、いつもより早めに俺

の腕の中で、眠りについた。



ヒカルは、店の店長や仲間が一生懸命に働いているからって、周りのみんなを少

しでも楽にさせようと頑張っちゃう性格。


自分だって…自分が本当は一番疲れているのに…。



だから、俺は、ヒカルの俺への我がままが愛しい…。


誰にも不平不満を言わず、頑張り屋だから、何でも素直に、俺に気持ちをぶつけ

て来るヒカルを愛している。



俺は、俺の腕の中で、かすかな寝息をたてているヒカルの髪を撫ぜていた。




いつの間にか、俺も寝ていた。


タバコが吸いたくなって、枕元のタバコと灰皿を引き寄せる。


深く吸い込み、瞳を閉じる。


すると、俺の鼓動に合わせるような、ヒカルの鼓動を俺は感じた。



ヒカルの胸に手を這わす。



形の良いヒカルの胸の乳首に触れる。



敏感なヒカルはうっすらと目を開けた。



「うーん…おはよ…ってか、朝から乳、触ってんぢゃねぇよ」



「起こしちゃった?つか、乳くらい、気にするな」



「あたしもタバコ吸お!…っと、その前に…」



ヒカルは、微笑んで、俺に口づける。



「今日も、リゾートなんやな…」


「そうだよ…そうそう、朝飯のルームサービスは10時に頼んどいたから」


「今何時?」


「6時ちょい過ぎ…まだ早いから、もう少し寝てたらいい…」


「もう、目が覚めた。起きる!」



ヒカルは、トイレに立った。



「オチッコもしたし…さぁ、呑むか?」



俺は、ヒカルに焼酎の水割りを作る。



テレビでは、ヒカルの大ファンのR&Bの女性シンガーのプロモーションビデオ

の特集番組がやっていた。



「おぉ!!朝から、呑みながら、大好きな唄も観れて、最高やわ」



俺の胸にもたれ、テレビを観ながらグラスの氷を鳴らす。


「この曲…大好きな曲や…泣いてもいいですか?」


「って、泣いてもいいけど、なんで好きなんだ?」


「この曲、聴くと、ぢぢぃを想いだすだから…。あんたを好きになったとき

に聴いた曲だから…」


「今は、俺がいるんだから、泣くことないだろ?」



俺は、後ろから、抱いているヒカルの乳房にそっと触れた。



ヒカルは小さく囁いた。


「抱いて…」



曲を聴いたせいなのか、俺を感じたせいなのか、潤んだ瞳を閉じさせて、俺は瞼

にキスをする。


それがもどかしいのか、ひかるは俺の頭を抱いて、自分の方から俺の唇に、口づ

ける。



充分な口づけの後、念入りの胸へのキス。


そして、一番感じる、下腹部の小さな突起へ舌を這わす。



周りを気にしなくていいからなのか、ヒカルは、いつもより大きな喘ぎ声で俺を

受け入れた…。




早朝から重なり合った俺とヒカルは、酒の為か、激しく求め合った為か、またもや気だるさに包まれながら、ベッドにもたれていた。


しばらくは、ふたりで、何するともなく、テレビを眺めていたが、ヒカルが、トイレに立ったのをきっかけに、俺は、自分のブログをアップしている、お気に入りのスマホサイトをチェックする。


「あぁ~!ふたりでいるのにスマホいぢるなよ!!」


戻って来たヒカルは、いきなり怒る。


「いやぁ…メールや書き込みあったから、返事だけ…ポリポリ…」


「ずっこいなぁ…あたしも、ぢゃ、やるからね!」


ヒカルも自分のスマホを取り出し、俺が覗いている、同じサイトの自分のブログを開く。


「あっ!あたしにもメール、来てた!」


「ふ~ん…いつものあの娘?」


「うん…って、あの娘、なんかあったみたい…サイトやめるって…」


ひかるが一番、仲良くしている、ひかると同年代の娘だ。


「なんか、ひどい書き込みされてるみたい」


「そっか…じゃぁ、そいつ、リンク解除して、閲覧禁止にできるって教えてあげなよ…」


「うん…」



ヒカルはメールの返事を待つ。


「来た…やっぱ、やめちゃうって…」


ヒカルは、涙を流して泣いている。


「いくら仲良くっても…んな、泣かなくてもいいじゃん」


「だって…いなくなったら寂しいよ…やめないでって、また、メールしたよ」


「泣き虫だな…」


しばらく泣いているヒカルの頭を抱いていると、返事が来る。


「閲覧だけで、書き込みできないようにして、しばらく続けるって…」


「よかったな。なら、お前とメールは、できるな。まだ、繋がったままでいられる」


「うん…よかったぁ…」


ホッとした顔のヒカルからは、涙は消えていた。


「よかったな…そう言えばよぅ…」


「え?なに?」


「そう言えばよぅ…俺、今日、スマホの充電器、持ってきてないぞ」


「えぇ!!あたしのもう、ほとんど電池ない…ぢぢぃ、最悪やな!!」


「だってさぁ…髪の毛、剃る、剃刀はポッケに入れたんだけど、充電器は忘れた。まぁ、俺のスマホは、ここの備え付けで充電できるし、取りに戻るの面倒だから、いいかな?って思ってさぁ…」


「ちっ!あたしのは充電できないぢゃんか!!いつも、ぢぢぃ、持ち歩いているのに…ぢぢぃ、最低!!」


「つか、俺が使うための自分の充電器、忘れたくらいで、なんでそんなに怒るかなぁ?」


「ぢぢぃのもんは、あたしのもんだからだよ!!こりゃ、デコピン、3発、貸しだからね!」


「ざぁ~けんなよ…」


「メールいっぱいして、やっと引き留めて、これから楽しく書き込みしようと思ったのに…」


ブツブツ文句を言うヒカル…。


「だいたい、ふたりで来ているのに、スマホいぢるのが間違いなんだよ」


「ぢぢぃが、先にやってたんぢゃんか!ぢぢぃも、スマホ禁止だからね…リゾートなんだから…ふたりで仲良くしなくちゃね…」


ヒカルは、俺のスマホを取り上げて、うわ目使いで微笑んだ…。




ルームサービスの朝食で、お腹の膨れたふたりは、いつのまにか、また、眠っていた。


俺が目を醒ますと、ヒカルは、もうすでに起きていて、バスタブにお湯を張っていた。


「起きたの?一緒にお風呂、入ろうよ」


「うん…そうだ…そう言えば、このホテルはフルーツ湯のサービスがあるぜ」


俺は、フロントに電話して、ヒカルのいつも使っているシャンプーとコンディショナーと共に、フルーツ湯の用意を頼んだ。


「お湯、溜まるまで時間があるから、トイレ入ろっと…」


「また、う○こかよ」


「うっせぇよ!」



「出た?」


ヒカルが戻り、俺はヒカルに訊く。


「うん…ウォシュレットもしてきた」


「どれどれ…モゥ~してみな」


ヒカルは、恥ずかしがることなく、前に屈んで、俺にお尻を開いて見せる。


「つか…ちっとは恥じらえよ…」


「ぢぢぃに恥ずかしがっても、しゃ~ないやん」


「しょうがねぇなぁ…つか、お前、ウォシュレットの後、紙で拭いたべ?ケツに紙、ついてんぞ…プッ」


「あいや~!!まぁ気にせんといて…つか、取ってよ…」


「プッ…こりゃ、誰かに言わないとダメだな…」


俺は、笑いながら、ヒカルのシリに付いた紙を取る。


「最低!誰かに言ったら、めっちゃ怒るでな!」


「ぢゃ、デコピン3発、無しだからな」


前屈みのままの、ひかるのお尻のホッペにキスをして、手を伸ばして、ヒカルの乳首をまさぐってみる。


俺は、ヒカルにまたもや欲情する。


「ダメやって…お風呂入るんだから…」


抗うヒカルを、少し強引にベッドに引きずり込み、ヒカルに重なる。


なぜだか、その時のヒカルは、とても妖艶で、俺は一気に昇りつめてしまった。


「ぢぢぃ…先、イキやがって…どうしてくれるん!」


俺は素直に詫びた…。

そして、年甲斐もなく、若い男みたいにヘマをした俺は、ボソボソと、言い訳をする。


「だって…すげぇよかったから… ポリポリ…」


しょうがなく、舌と指でヒカルをイカせ、俺はヒカルのご機嫌をとった。


「お前、幼児体型のくせに、なんでお前なんかに参っちまったのかな?」


「ぢぢぃ、あたしに惚れてるね…プッ」


「うっせぇよ…つか、お前また、下っ腹が出てきたな。ガスたまってるべ?便所で、一発、屁こいたべ?ブホッって…」


「出た出たって、聞こえた?」


「聞こえねぇけど、腹見りゃ判る。さっきから気づいてたんだけどさぁ…ガス貯まり…」


「ぢゃ、なんですぐに教えないの?」


「バカだなぁ~。エッチの前に言ったらエッチの気分が壊れるぢゃん…まぁ、いっぱい、屁すりゃなおるから…プッ…」


俺は、笑いながらヒカルの下っ腹を何度か押す…。


「笑ってんぢゃねぇよ!」


「あはは…」


温くなったバスタブの湯を、貯め直し、柑橘系のフルーツを浮かべ、ふたりで入った…。


「のんびりできたな?」


「うん。ええ休みだったわ…」


「リゾートですから…」


バスタブの中、俺とヒカルは、キスをしながら微笑んだ…。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る