第16話  ヌーブラ。


まだ、店内が混み始めない、モーニングの時間。


リュウちゃんが、ヒカルに話しかける。



「姐姐(ジェジェ)。ヌーブラって、どこに行けば買えるか?」


「なんや、リュウちゃん、今どきヌーブラ?…でも、新品の、あたし持ってるからあげるよ」


「ほんと?姐姐、謝々、ありがと!」


翌日、ヒカルから、ヌーブラを受け取り、1日中、上機嫌なリュウちゃんであった。


「やっほ!やっほ!ヌーブラやっほ!!」


こんな古いギャグをどこで覚えたのか?

カウンターの中で腰を振りながら歌うリュウちゃんを、ヒカルも微笑んで見ている。


犬のおっさんが来て、カツカレーを、ガチャガチャ、ペチャペチャと音をたてながら喰らっていても、その日だけは、リュウちゃんの笑顔で、ヒカルも、犬のせいでの暗くなる気持ちも幾分、救われたのだった…。



さらに翌日となる。


ヒカルより、1時間遅い出勤のリュウちゃんが、店に来た。


「おっはよぅ!」


ヒカルは、朝からハイテンションである。


「リュウちゃん、今、店長と、話とったんやけど、ヌーブラどうだった?してきた?」


「姐姐、おはようさん。店長、おはようございます。」


リュウちゃんは、どことなく暗い雰囲気である。


「どうしたんや?」


ヒカルは、すかさず、リュウちゃんに訊ねる。



「姐姐、これ、返す…」


そう、天然のヒカルは、自分とはサイズの異なるリュウちゃんの胸の大きさを考えずに、ヌーブラを渡し、同じく、天然のリュウちゃんも、サイズを考えずに、自分の胸にあてがったのだった。



「姐姐、姐姐はC。あたしはA。落ちちゃうよ…」


リュウちゃんは、悲しげに、ひかるにヌーブラを返した。



「やっぱな…プッ…店長〜。やっぱ、リュウちゃん、ダメやったって!!」



最初は、悲しんでいるリュウちゃんに、同情げなヒカルだったが、すぐに、いつものいぢわるな表情に戻り、店長に大声で報告する。



「ププッ~バァ〜ハハッハ〜!!なぁヒカル、言ったとおりだろ?リュウちゃんには、絶対に大きすぎるって…。リュウちゃん、AAカップなんだから、おこちゃま用のヌーブラじゃないとダメぢゃん…プッ…」


「もぅ!姐姐も店長もバカにする〜。AAぢゃなく、Aぢゃ!!」


「リュウちゃん、緑色のスライム、買ってやろうか?ヌーブラの代わりのスラブラ…ププッ…」


「店長、むかつく〜!!」



ちょうど、その時に、俺がモーニングを食うために店の扉を開いた。


いつもの3卓に座るや否や、リュウちゃんが、俺の所へ走って来て、いきなり、俺に、でこぴんの連打をする。


あっけにとられる俺に、リュウちゃんが言う。


「やつ当たりぢゃ!ぼけ!!」


ヒカルも、店長も、リュウちゃんも爆笑している。


なんだか訳の判らない俺も、おでこを擦りながら一緒に笑った。



モーニングを食いながら、ヒカルに、説明をしてもらう。


「あれ?ぢぢぃ…なんか、おでこに…」


話しながら俺のおでこの異変に気づくヒカルが、鏡を持ってきた。



中国、五千年の必殺技なのか?


俺のおでこには、うっすらと、文字が浮かび上げっている。



『ぶら』



リュウちゃんは、口笛を吹く真似をして、とぼけている。


ヒカルと俺は、鏡とリュウちゃんを見比べて、また、大爆笑をさせてもらった…。

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