第15話  あいや〜。


真夏の午後、建築現場の仕事を見回っただけで、汗だくになった俺は、気づくと、カフェ&レストラン…ヒカルの勤めている店の駐車場に来ていた。


そして、朝まで俺の腕の中で、寝息をたてていたヒカルの顔を思い出しながら店内に入る。



「いらっしゃいませ」


ん?


見慣れない、新しい娘が俺に声をかける。


俺は指定席…いつもの3卓へ腰掛ける。


その新しいユニホームを着た娘が、冷たいおしぼりに、氷の入った水のグラスを持ってくる。


「アイスコーヒー」


「はい、かしこまりました」


なかなか、おとなしそうで清楚な顔立ちの可愛い娘だ。


ふと、カウンターを見る。


目敏いリュウちゃんが、俺を見つけ、ブラジャーを直しながら手を振る。


ヒカルは、奥から下げ物のグラスとおしぼりを、山のようにトレンチに乗せ、戻って来た。


カウンターに、下げ物をおろすや否や、ヒカルは新しいその娘に声をかける。


「ネネちゃん、3卓のぢぢぃには、気を付けるんだ!」


バカやろ!!


丸聞こえだ!!


俺は、ヒカルに、片目をつぶって、中指を立てる。


ネネちゃんと呼ばれた娘は、俺を見つめ、少し怯えた表情になる。


アイスコーヒーを運んできたヒカルに、文句を言う。


「バカだなぁ〜あの娘、怖がってんぢゃんかよ」


「ぢぢぃは胡散臭いから…プッ…」


「新しく入ったんだ?」


「しばらく夜に何日か来てて、今日から昼間に変わったん。中国の娘なんよ」


「そっか…でも、日本語うまかったぜ…」


「発音いいね…でも、まだまだ日本語教えないと…」


「リュウちゃんに続く、悪い日本語教わるお前の生徒、第2号か?プププッ〜」


「うっせぇよ!!」



カウンターでは、リュウちゃんとネネちゃんが何やら中国語で話してる。


リュウちゃんはヒカルを指差し、小指を立て、ついで俺を指差し、今度は親指を立てた。


それを見ていたヒカルは、カウンターに走り戻り、カウンターの中のリュウちゃんにジャンピングでこぴんをかます。



「リュウちゃん、ぢぢぃのことは、しぃ〜…言うたやろぅ?」


ヒカルは、ひとさし指を唇にあてがいまた、しぃ〜、と、言う。


「あいや〜」


リュウちゃんは、おでこを擦りながら、言う。


「いちお、内緒だったね。忘れてた…いちおね…プッ…」


ふたりのやり取りを眺め、驚いた表情のネネちゃんだったが、なんだか納得したように独りうなづき、会釈しながら、はじめて俺に微笑んだ。


カウンターでは、隙を狙ったリュウちゃんが、ヒカルにおかえしのでこぴんをしていた。


あいや〜と、おでこを擦り、リュウちゃんの真似をしながら、俺に走りより、俺に、でこぴんをかます、ヒカル…。


「やつあたりぢゃ!ぼけ!」


元気なヒカルを見て、リュウちゃんもネネちゃんも笑っていた…。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る