第14話 午後のひととき。
祝日のティータイム。
店は暇になったかと、俺はまた、このカフェ&レストランに来た。
しかし、かなり忙しそうだった。
俺はだまって、いつもの3卓へ座る。
オーダーはしない。
ヒカルは、俺がコーヒーを頼むのを判っているからだ。
ブラックしか飲まない俺に、シロップとミルクは入れないのに、また、軽い嫌がらせか、ヒカルは、笑いながらアイスコーヒーと一緒に持ってくる。
カウンターの中では、リュウちゃんが、俺と目を合わせるたびに、手を振っている。
洗い物で、濡れた手のまま、相変わらずAカップのブラジャーの位置を直しながら…。
忙しいと、カンちゃんの動作は、ひときわ、プリティになる。
乙女の心を持つカンちゃんは、今日も汗だく。
忙しければ忙しいほど、大きなお腹と胸を反って、ちょびっと腰を落とし、お尻を突きだし、小刻みに歩く。
もちろん、何気に、小指は立ててる。
「いらっしゃいませ〜」
優しい声だが、いつもより、声が鼻から抜けて、聞き流さなければ、老舗のおかまバーに迷い込んだ気にさせる。
おっ!!
三崎さんが、遅めの休憩から戻ってきた。
細身の身体に、すらっとした足。
それを強調するために、極力、短いスカートを穿き、ユニホームの裾をたらせば、太ももが露わになり、まるで、下着の上に、男物のワイシャツを着ているような感覚を、客に印象づけるのだ…。
それゆえに、ホールスタッフ達からは、露出の三崎と呼ばれていた。
二階の休憩室から、階段を下り、最後の階段を降り、レジの前で、客席から、自分の姿が見える位置に来ると、三崎さんは、180度、くるりとターンをし、一瞬、立ち止まり、背筋をのばし、左の膝を曲げ、ポーズをとる…。
少し、微笑んだ口元には、まるで、演歌歌手のように、
「いらっしゃい…さぁ、あたしを見て…」
と、言っているように見える。
露出の三崎さんを堪能したら、変わって、リュウちゃんが、休憩だね。
洗い物を今日は担当しているカウンターのリュウちゃんは、スリムなジーンズにブカブカの白い長靴がよく似合う。
飾らないリュウちゃんの長靴姿は、ちっちゃな女の子が、雨でもないのに、いっつも、長靴を履いて、遊んでいるかのようだ。
あっ!!
店長だ…。
この忙しいのに、いままで姿が見えなかった。
ありゃ?
頭が、坊主になってる…。
「暑いから、髪の毛切ってきた…」
「このクソ忙しいのに、何考えとるねん!」
ヒカルが、思いっきり、文句を言う。
「さぁ、忙しいんだから、みんなしっかりな!」
店長は、甲高い声で、ヒカルの言葉を無視して、笑顔でみんなに、声をかける。
「お前もな…」
まるで、合わせたように、ホールスタッフ全員に、突っ込まれる。
「かなわんなぁ…」
店長も、みんなも明るく笑っていた…。
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