第12話  イタチ。


朝まで俺に抱かれていたヒカルは、出勤の時間になると、いつもの明るく元気なウェイトレスに変わっていた。


店に行き、掃除をして、開店の準備をする。

 

俺は、俺の本業である、建築現場へ向かい、仕事の段取りをして、ヒカルの店へついたのは、ランチタイムも終わりに近づいた頃だった。


いつもの席で、ヒカルが運んできたランチを食いながら、何気に店内を見渡す。


見ると、なんだか、回りをキョロキョロ見ながら、めしを食ってる男がいる。



「なぁ、あそこの16卓のやつ…挙動不審じゃねぇ?」


俺は、小声でヒカルに訊いてみた。


「あぁ…たまにくるんだけどさぁ、変なやつでしょ?食後のコーヒー持ってきてって言う時、自分のスマホから店の電話にかけてくるんだよ。椅子に座ったまま…」


「すげぇ、人見知りなの?」


「いや、そんなこと無いよ…んでね、やつ、支払いの時、必ずカード払いなんだけど、カードを機械に通す時、時間が少しかかるんだ。その待ち時間であたしを毎回ナンパするの…。割り箸の袋にやつのTel番とラインID、書いて、あたしに渡すんだよ。いつでも連絡してって…キモいでしょ?」


「へぇ〜。ヒカルにだけ?そりゃシャイって言うよか、おかしなやつだな」


「うん。いつもあたしがレジに立ちそうな時にレジに来るよ。今日もやるから見ててみ…」


「ほぅ…」


「いつもはシカトだけど、今日は断ってみる」



挙動不審なのは、ヒカルを目で追っていたからだった。


案の定、ヒカルがレジ近くに行った時に、慌てて席を立ち、会計に向かった。



俺は二人を見ながら、耳を澄ます。



「950円になります」


「カードで…」


やつのくもった声が聞こえる。



「ねぇ、いちど電話してよ…いい店知ってるから行こうよ。飲めるでしょ?」


「悪いんですけど、お客さんに興味無いし、私、彼いますから…」


カードを受け取り、やつは、まだ、しつこく粘る。



「彼いても、いいから…」


「困ります!!」


ヒカルは、かなり強い口調になる。



「怒らないでよ…今日は帰るけど、連絡待っているから…」


そう言いながら、やつは、ポケットから、板チョコを1枚だして、カウンターへ置いた。



「食べてね」


と、やつは外に出た。



ヒカルは指先で、チョコを摘まみ、そのまま、ゴミ箱に捨てた。



その日から、やつのあだ名は、板チョコ…いたちょこ…から、イタチと呼ばれるようになったのだ…。



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