第9話 オランダ揚げ。
リュウちゃんは、働き者である。
昼間はカフェ&レストランで働き、夜には、やはり、中国人のママがやっているスナックで働いている。
その夜は、俺とヒカルは、ヒカルのマンション近くの居酒屋で食事を兼ねて、ふたりで飲んでいた。
「生中に、オランダ揚げ、追加ね」
オランダ揚げは、蟹の擂り身の入ったさつま揚げ。
それは、ヒカルの大好物だ。
それに、とりの唐揚げ、とりもものグリル、俺の好きなポテサラで、酒を飲む。
とりの皮だけをむしって、自分で食い、身は、俺の口に押し込む。
「普通に食えよ」
「だって、とりの皮が好きなんって…」
悪気ないヒカルに、俺は微笑む。
ビールから焼酎に替え、オランダ揚げも出来て、テーブルに並んだ。
あつあつのオランダ揚げを一口、頬張り、お前は言う。
「オランダ揚げっておいしいよね」
「うん」
「オランダ揚げっておいしいよね」
「そうだな」
「オランダ揚げっておいしいよね」
「だから、うまいって言ってるじゃん」
「オランダ揚げっておいしいよね」
「しつこいな」
「でも、オランダ揚げっておいしいよね」
「面倒くせぇやつだな」
「ほんと、オランダ揚げっておいしいよね」
「うるせぇ!!」
お前は楽しそうに笑う。
ふたりで、焼酎を一本、飲み終わる頃、ヒカルのスマホに着信音が鳴る。
「誰?」
「武雄や!」
大山武雄…。
この、禿げ親父は、ひかるの店の会社の部長である。
店に来ても、店の仕事を手伝うでもなく、従業員達にちょっかいを出して、ふざけた後、すぐに、次の系列の店舗へ行ってしまう。
だから、俺は武雄は知らないし、武雄も俺みたいな、店の常連を知らないのだ。
「武雄に飲みに誘われた。リュウちゃんの店に来いやて…」
受話器を押さえ、俺に訊く。
「行けばいいぢゃん。部長だろ?」
「したら、一緒に行こか…」
『もしもしぃ…今、ひとりじゃないんです…。はい、一緒に連れてってもいいですか?』
俺は、一緒に行くことを、少し、渋ったが、リュウちゃんの店なら、俺も行きたかったし、お前が俺の手を強引に曳くから、一緒についていった。
「いらっさぁ〜…あっ!姐姐にぢぢぃ!!」
俺達は、微笑みながら、カウンターの武雄の隣に座る。
俺より10才程、年上の武雄は、なかなか気さくで、もうかなり酔っていた。
「ん?ピカちゃんの彼?ピカちゃんの連れはプロレスラーか?」
武雄はガタイのデカい俺を見て、冗談を飛ばす。
リュウちゃんがすかさず、俺の代わりに言葉を返す。
「部長。プロレスラーじゃないよ。ぢぢぃさんだよ。」
「ぢぢぃさんじゃなくて、ぢぢぃだよ」
ヒカルも返す。
「ほらな、部長、ヒカルちゃんがそう呼べって教えてくれた」
リュウちゃんが武雄に話す。
「ピカちゃん、そうなの?」
武雄は、カンちゃんが、ヒカルに、よくそう呼ぶのを真似て、ヒカルに話しかける…。
部長には、いつもは丁寧に敬語で話すヒカルだったが、酔った席と言うことで、乗り良く答えた。
「ピカちゃんピカちゃん言うな!ピカちゃんはお前や!…あっ!!お前もや!!」
ひかるは、武雄のハゲ頭を指差し、ついでに俺のスキンヘッドも指差した。
カウンターの中では、リュウちゃんが、Aカップのブラジャーの位置を直しながら、指と腰を回し、くりくりくりそと、踊っている。
その後も、俺たちは笑い、飲み、唄い楽しんだ。
俺たちは、武雄に感謝で頭を下げ、リュウちゃんに手を降って、店から帰る。
「楽しかったな」
「うん、笑いすぎて化粧くずれた」
「また、来ような」
「うん。オランダ揚げっておいしいよね」
「うるせぇ!!」
ヒカルは少し、肩をすくめ、俺に抱きつくと、俺に長い長いキスをした…。
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