第5話 仲良しの3人組。



「おはよ」


 相変わらず、ヒカルの働くレストランへ行く。



「ぢぢぃ、仕事やれょ」


 そして、相変わらずお前は口が悪い。



「バカだなぁ…俺はいちお、社長なんだよ。俺の仕事は、みんなに、頼むねって

言って、現場から離れることなんだよ」


「そっか…って…そこはちがうでしょ〜」


「でもよぉ。お前、俺に来て欲しいだろ?店に…会いたいだろ?」


「うん」



 たまに素直になる。



「バカだなぁ〜プッ…俺に惚れたかぁ〜プッ」


「うっせぇ〜よ」



アイスコーヒーを注文したのに、ヒカルはわざと、ホットコーヒーを持ってきやが

った。



 

店で会い、俺が仕事中はラインで話し、ふたりが仕事を終えると、電話で夜更けまで会話する。



この頃には、他のホールスタッフとも会話を交わすようになり、店内では、気の良い常連のスキンヘッドのパゲぢぢぃで通っていた。


 

その日のホールスタッフは、お前と身体のでっかい、汗をいつもダラダラ流し

ている、優しそうなおにぃちゃんに、身体のスラッとした中国からの留学生の子だった。


汗、ダラダラのおにぃちゃんはカンちゃん、中国の子はリュウちゃん、そしてお

前はお前の名前のヒカルちゃんって呼び合ってる。


リュウちゃんは、ヒカルを親しみ込めて姐姐(ジェジェ)と呼ぶ。


そして、3人が3人とも、天然なのは、俺に微笑みを浮かばせ、時には失笑も与えてくれる。



ランチとティータイムの間。


俺は、その日、2度目のコーヒータイムだ。


比較的、暇そうで、3人で会話してる。


まるで、コントか漫才のようなやりとりを楽しむために、俺は、会話に入らない

ように、3人を傍観する。


日本語がまだよく判らないリュウちゃんに、ふたりが日本語を教えている。



「日本人は親しくなると、あなた…は、お前、もっと仲良くなると…ぼけって呼ぶと、呼ばれた人は喜ぶよ」


ヒカルは、訳の判らない、でたらめを教えている。


オーダーが入り、カンちゃんが受ける。


戻って来て、リュウちゃんに言う。



「くりそ、ね…クリクリ〜…クリクリ、くりそ〜」


「クリって、なにか?」


「店長に訊いてみ」


リュウちゃんは、奥の厨房で、調理をしている店長に訊ねる。



「店長、クリ、なにか?」


「あそこについてて、いぢると気持ちいいものだよ」


プッ…。


店長も、いい加減なことを答えてる。



「う〜ん…姐姐…クリ、なにか?」



姐姐と、お前に、リュウちゃんは、まだ、訊いてる。



「はやく、オーダー通さないと…クリソはクリームソーダの略だから、更に略して、くそ…ね」



「そう言えば、日本では、お願いしますの、もっと丁寧な言葉は、クリ舐めて…だよ」


横から、カンちゃんが口を挟む。


学習能力の高いリュウちゃんは、店長に向かってオーダーした。


「くそ、入りま〜す。ぼけっ、クリ舐めて…」




俺は、笑いすぎて、床を転げ回りそうになった…。


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