第2話  予感。


バゥバゥのおっさんが帰り、また、店内の客は俺ひとりとなった。


長居するのは申し訳なかったが、暇をもて余していた俺は、コーヒーをまた追加注文し、もうすこし、この喫茶店にとどまることにした。


店内には、俺とウェイトレスの娘のふたりだけ。


何気に俺は、ついつい、彼女に話しかける。



「さっきの人、なんかすごいね?」


いきなりの俺からの言葉に、彼女は目を輝かせた。



「そうでしょ?毎朝くるんよ。毎日、ばぅばぅって…」


「近づくとなんか臭うね」


「そうそう、だから嫌なの…朝のお客の少ない時しか来ないから、しょうがないから入れるけど…ごめんなさい。お客さん大丈夫でした?」


「いゃぁ、俺は大丈夫だけどさぁ…」


ふたりの会話は、急に接近して親近感を呼ぶ。


彼女は、立ち位置から一歩前に出て、俺に話をはじめた。


彼女の言い分は、最初は臭いもばぅばぅも我慢できていて、普通に接客してたけど、今は、見た目も雰囲気も生理的に受け付けないのだそうだ。



「ねぇ、たいして害じゃなくても、どうしても好きになれないって人いるでしょ?」


彼女は、初対面の俺に、かなり積極的に話している。


自分が毛嫌いをした男性客を、この目の前の客も嫌うという連帯感。


ふたりが、似た感性を持っていると察したか、初対面の感覚は薄れ、旧知の仲の


様に感じていたのは、俺も同様だった。



「どうしても嫌い…あの客がそうなんよ」


「あの犬ぢぢぃね」


「そうそう!私の中では、やつを犬と呼んでいるんよ」


プッ


やっぱ、犬だよなぁ…と、俺も同意した。



「ねぇ、タレントで誰が嫌い?」


調子こく俺は、ついつい軽口になる。



「見た目、イメージで申し訳ないけど…やっぱ、松村かなぁ…」


「やつも、ばぅ、じゃん」


「あっ!そうだね」


「究極の選択。松村とさっきのばぅ…。世界に二人しか男がいなかったら、どっちとえっちする?」


「どちらも無理。」


「いや、しないと死んじゃうとしたら?」


「う〜ん…犬は超無理!思い浮かべたくもない!」


「ぢゃ、松村だな?」


「それもなぁ…。」


「ぢゃ、松村じゃなくて俺だったら?」


「………俺…」


はにかむ可愛いその娘の笑顔に、俺は、この店の常連になる予感をもったのだった…。

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