カフェ&レストラン〜ヒカル

ぐり吉たま吉

第1話  バゥバゥ


国道から、一本中へ迂回して、偶然見つけたレストラン。


駐車場も広く、店内も明るい。


開店前で、掃除をしていたウェイトレスのおねぇちゃんの可愛い笑顔に惹かれて、今日の朝飯をこの店で食うことにした。


待つことわずかで、開店となり、俺は、カウンターの近くの小さなテーブルに案内された。


モーニングセットを頼み、先に来ていたコーヒーカップの縁を、何気にさわりながら、トーストが焼き上がるのを待っている。


大きめな店内なのに、さっきの女の子はひとりで切り盛りしているのか?


店内は彼女しか見えない。


奥の調理場から皿が出てきたことで、コックさんは中に居るんだな…なんて思っていたら、彼女は、満面の笑顔でトーストとサラダを運んできた。



「ありがとう」



「ごゆっくりどうぞ〜」



ウェイトレスの娘は、そのまま俺の卓からわずか2メートルほどの位置に立つ。


ここが彼女の立ち位置か?


俺の斜め前に立って、客が来るのを待っている。


サラダのトマトを頬張りながら、店内を見渡す。


レトロながら、なかなか豪華な作りである。


モーニングセットを食べ終わり、冷めたコーヒーを啜っていると、入り口から客の入る音。


見ると、ひとりの初老の男である。


「いらっしゃいませ!」


さっきのウェイトレスのおねぇちゃんの可愛い声を期待した。


あら?


俺にはちゃんと、笑顔で明るく、いらっしゃいませ…を、言ってたよなぁ?


俺は、おねぇちゃんを見る。


可愛い顔をしかめ、俺には聞こえるくらいの舌打ちをした。


ちっ…!


それから、これ以上できないってくらい低いトーンで水をもって、先程の男

のところで言う。


「いらっしゃいませ…」


「いつもの…」



 いつもの?


おっさん、常連かい…?


それにしても、あの娘のおっさんに対しての毛嫌い様…。


おっさん、気づかないんかな?


絶対にあの娘、おっさんを毛嫌いしているって意思表示をアピールしているのにな…。


プッ…。

俺は楽しくなってきた。


こうなったら、おっさんとおねぇちゃんを観察しないとダメじゃん…。

プッ…。


さて、あのおやじのどこが嫌なのかな?


あの娘は、無言でコーヒーをテーブルに置き、足早に、また、立ち位置に戻る。



男の方は見ないで、入り口ばかりを見て、男を自分の視角に入れないようにしているおねぇちゃん。


男はコーヒーと水をせわしなく、交互に飲んでいる。


ん?

いきなり、おっさんが咳込んだ。


“ばぅばぅ!”


あら!


バゥバゥって、じじぃは犬か?


激しく咳込み、テーブルやソファに唾を飛ばす。


「じじぃ、また、ばぅばぅ言った…」


おねぇちゃんは独り言のつもりだったのだろう。



しかし、広い店内で、おっさんには聞こえなくても、しっかり俺の耳には届いていたのだ。


ははぁ〜ん…。


なるほどね。


毎朝来て、“ばぅばぅ!”って、やるんだな。

テーブルやソファを唾だらけにして…。


まぁ、他の客だって、たまにゃ咳するじゃん。


でも、あのおやじだけは許せないのかな?

 

やっべぇ…。


俺は、あの娘に話しかけたくなってきた…。


“ばぅばぅ!”


また、咳してるね。


ゴホンぢゃなく、コンコンでもなく、バゥバゥなんだな。


プップッププッ〜。


おっ!!


おっさん、帰るね?


でも、咳しなきゃ、大人しいじじぃじゃん。


帰りは違うルートで出口へって、ありゃ、俺の方へ、近づいてきたね。


ん?

くせぇ…。


じじぃ…くせぇよ。


なんの臭い?


犬の臭い?


んなもんじゃないね。


そりゃ、犬に対して失礼だな。


けだものの臭いじゃない。


生ゴミ?


じじぃ…その臭いは犯罪に近いぞ。


じじぃ…普通、おまえ、出禁でしょ?



その男が去った後、入り口の扉は10分間、開かれたままにされていた。


そうして、おっさんの悪臭が消えた後、おっさんのテーブルは片付けられたのだった…。

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