※殆どメモ ルスside

老夫婦を「おばあちゃん」「おじいちゃん」と慕うルス。一年近く老夫婦と過ごすけれど、何があったのかサディトリアル家と教会がやってくる。

ルスがサディトリアル家と教会に絡まれるのはもう定め。誰が何をしようと、サディトリアル家と教会がルスを望む限り絶対にその定めは変わらないし、変わる未来は無い。



ルスは穢が、魔女が憎かった。

無理やりサディトリアル家に連れていかれて自分の暮らしが滅茶苦茶になったのは、魔女のせいだ。魔女がいなければ、僕は<魔女殺しの英雄>なんて肩書きはなかったはず。魔女を討伐するという使命を背負わなくて済んだはず。

人殺しなんてしたくないのに……。


人殺しをしたくないから、ルスは魔女を殺す。

滅茶苦茶な理論だ。でも、他にどうすればいいかわからなかった。早く殺しこんなことをやめるためには、原因である魔女を消すしかないと考えていた。

魔女を殺す。やりたいかやりたくないかで言えば、当然やりたくない。でも、これは仕方がないのだ。そう自分に言い聞かせながら、ルスは教会の魔女狩り部隊に所属し、剣術その他の魔女狩りに必要な技術を身につけていった。

そして穢や魔女の邪悪さ、危険さなどを教えられた。

しばらく経ったある日、サディトリアルの人から一つの知らせを聞いた。


老夫婦が亡くなった。(原因は考え中) 


ルスは知らない土地で、本当に独りぼっちになった。


それから一層、ルスは魔女狩りの訓練に精を出すようになった。

ルスと同じ部隊に所属す青い髪の少女は思う。あの子はいつも必死で、その顔は何かに追われているようだ、と。

「バカな子。」

遅くまで一人で剣の練習をするルスを通りがかりに見て、そう呟いた。


早く

一瞬よぎった考えに、ルスはふと立ち止まる。

『殺さなきゃ』?

ゾッとした。

僕は、魔女を

いや、確かに殺さなければ僕はこの肩書きから逃れられないが、殺したいわけではない。殺すのは仕方のないことで……。

『仕方がない』?

仕方がなければ、人を殺していいの?

いや、魔女は人間じゃない。魔女は魔女だ。だって、そう教わった。魔女は邪悪で、危険で、人々を苦しめる。それが魔女が忌み嫌われている理由。だから魔女が殺されるのは当たり前だし、それが僕ら魔女狩りの部隊が魔女を討伐する理由だ。

本当に?それって当たり前なの?

あれ?あれ?おかしいな。

思考がまとまらない。自分が何を考えているのかさえわからなくなる。

僕は魔女を殺したがっているのか?

それとも、仕方なく殺すのか?

または、いなくなって当然だから殺すのか?

自分が何故魔女を殺すのか、わからない。

自分の本当の気持ちが、わからない。

僕は僕が怖くなった。

いつの間にか、教会の教えに思考が侵食されていってる気がする。


僕は魔女を殺す本当の理由がわからないまま、とうとう空間の魔女イルニアの討伐を拝命した。 


魔女イルニアは、教会で教わった通り悪意に満ちた魔女だった。

だけど僕を見るその目には、まるで老夫婦の時のような「なにか」があった。

だが、その感覚は一瞬で振り払った。

まさか。そんなわけがない。おばあちゃんたちとこの魔女は全く違うのだから。

意識を変えないと。僕は今からこの魔女を殺すのから。ずっと憎かった魔女を、この手で。

ルスは剣を強く握って、構え直した。


魔女は一度、寂しそうで辛そうな顔をする。

どうしてそんな顔をするのかわからず、混乱する。


色々ある。


とうとう、魔女の心臓に剣を突き刺した。

魔女は倒れ、死ぬ間際に悲しい顔をした。

僕は面食らった。

「どうして……。」

続きの言葉は空気に溶けていった。


答えは帰ってこなかった。


(これ以降のルスは全然思いついていない。

自分は何故魔女を殺すのか。何がしたいのか。本当に魔女は殺されるべきなのか。イルニアは何故悲しい表情をしたのか。

その他色々なことを一生悩み続けるとしか、わからない。

自分を見失った彼は、どこに行き着くんだろう。)

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