【五巡目】魔女の居ぬ日常 (ルスside)
ルスが目を覚ましたのは、イルニアが彼らを転移させてから一週間ほど経った頃だった。
友人たちは喜ぶ。あの魔女は?そう訊くと、皆暗い顔をした。
自分が眠っていた時の話を聞く。
そこから色々。とりあえずイルニアの家で暮らす。
もしかしたら、街の人とも交流があるかも。教会に所属していたことを隠して働いたり。
ある日のこと。
「全く……アレは何がしたかったのか、ようわからんの。」
知らない声に僕たちは驚き振り向いた。
そこにいたのは、大きな魔女帽子にごてごての服を纏った幼女だった。
一体どこから……全く気配に気づかなかった。
咄嗟に身構える。
幼い外見だが、実際はかなり長い時を生きている。雷を操る特異で強力な魔法とその不老の身から、教会に異端と認定された。
僕ら四人でこの魔女を対処できるか?
そもそも、いつからいた?目的は?
こちらの緊張が高まるなか、魔女は服についた埃を払いながら幼児特有の高い声に不似合いな話し方で言った。
「身の危険を察知できるのは結構。じゃが、反応速度が遅すぎるのう。……まぁ、それはさておき。今は身構えなくてよいぞ。我はお主らに危害を加えに来たわけではないのでな。」
そう言われても、警戒を解くことはできない。
僕たちが注視していても魔女は全く意に介していないようで、彼女は辺りを見回し、トン、トン、とゆっくり僕らの前を歩いた。
何をしているんだ、この魔女は。
訝しげに見ていると、突然、魔女と目が合った。
「……っ!」
思わず目を見開いた。
魔女は僕の前で立ち止まり、一瞬だけ視線を僕の左手に移してから、まるで品定めするように全身を見た。
魔女の目的がわからず困惑し、体が強張る。
ふと黄青年たちに目をやれば、僕を心配する色が見てとれた。赤青年はグッと拳を握りしめ、魔女を睨んでいる。
「……ふん。アレがひどく気に掛けるからどんなやつなのかと見に来たが、ただの脆弱な人間じゃないか。こやつのどこが良いのか、我にはわからん。」
ひとしきり品定めが終わると、魔女は落胆した声でそう言った。
「たかがこんな人間の為に、アレは命を散らしたのか。……愚かよな。アレも、この人間も。……全くもって下らん。」
彼女が最後にそう吐き捨てると、魔女の暴言に耐えかねた赤青年が彼女の肩に掴みかかった。
「お前、何なんだ。いきなり人の家で好き勝手言いやがって。」
「(赤青年の名前)!」
「ちょっと!!アンタやめなさいよ!」
「うっせぇ、黙ってろ。魔女だろうが何だろうが、ルスとあの人を馬鹿にしやがって。ふざけんな!!」
赤青年は黄青年と青少女に取り押さえられながら、すごい剣幕で魔女に怒鳴った。
まずい、このままでは赤青年が魔女に殺されかねない。
最悪の事態を回避する方法を考えるが、一向に思いつかない。
魔女は赤青年の方を向き、真っ直ぐに彼を見た。
「どれも事実じゃよ、
その声に怒気はなく、淡々としていた。しかし、最後の威圧に肌が粟立った。彼女の威圧を正面からまともに食らった赤青年も、少し前の威勢はどこへやら、体がビクッと揺れて顔が青ざめていった。
部屋全体に緊迫した静寂が訪れる。
この静寂を破ったのは、黄青年だった。
今の状況を不味いと思ったのか、赤青年と魔女の間に割ってはいるように一歩前へ出た。
「魔女よ、仲間の非礼を謝罪する。」
赤青年に非難めいた視線を送られながら、黄青年は改まった態度で頭を下げる。
魔女は黄青年に向かい、ふむ、と顎に手を添える。
「お主はしっかり身の程を知っておるようじゃな。その謝罪、受け入れよう。
それから魔女はルスの左手の小指にはめられている指輪を睨み付ける。対象を保護する魔法だけでなく記憶を封印させる魔法が組み込まれているとわかる。二つの異なる魔法を一つの物に付与するのは高度な技だ。さらに、これをつけたのはイルニアだろう。彼女が何故そんな指輪をルスにつけたのかは知らないが、イルニアがルスを非常に大切に思っていることは十分伝わった。
それなのに……。
肝心のルスはイルニアの想いなど知らず、のうのうと生きている。
何故だかそれが無性にイライラした。
だから、腹いせにルスの指輪に圧縮された魔力を当ててそれを破壊してやった。
パキンッ!
音をたてて指輪は真っ二つに割れた。
その指輪がどんな記憶を封じているかなんて知らぬ。しかしアレが死んだことで、効力はほとんど無くなっているはずだ。魔女が壊さずとも、ルスの記憶は近々戻っただろう。それが多少早まるだけだ。
破壊させた指輪を見て、ルスたちは瞠目する。
「何を……っ!うぐっ……う、あぁっ!」
ルスが頭を抱えて膝をつく。非常に苦しそうだ。封じられていた記憶が戻っているのだろう。その反応から推測すると、指輪はかなりの量の記憶を封印していたらしい。ルスはそれに耐えきれず、意識を失った。
「「「ルス!」」」
赤青年たちがルスに駆け寄る。
「てめぇ、何しやがった!」
「ただ指輪を破壊しただけじゃが?今はそれに封じられていた記憶が其奴に戻っているのじゃ。」
パチンと指を鳴らし、赤青年に小さい雷を纏わせた。
その途端、彼はバタンと床に倒れる。
なに、少し体が痺れた程度じゃろうに。もう倒れるとは、軟弱な体よの。
全く……二度目は無いと忠告したのだがの。予想外のことで焦っていたとはいえ、感心しないわい。本当は雷を纏った拳で殴るくらいはしたかったが、イルニアの家を壊すわけにはいかんからな。
魔女はルスたちに興味が無くなると、一層焦る彼らを一瞥し、帰っていった。
その後ルスは寝込む。数日後に起き、その時には全ての記憶が戻っていた。ルスは塞ぎ込み、「一人にしてくれ。」と誰も部屋に入れようとしなかった。
それからイルニアの手記を発見したり、なんやかんやで元のルスに戻る。ルスは頻繁にイルニアの手記を読むようになる。そこには彼女の人生だけでなくルスへの想いや葛藤、苦悩が綴られていた。ここで、イルニアの母(育て親)が雷の魔女だと判明。
一方、教会はルスを連れ戻す為、行方不明の彼らを捜していた。
因みに、ルスたちを自由にするというイルニアとの血の誓約には違反しない。
あれは「私は死ぬ。その代わりに」という文言から始まる誓約。つまり、イルニアが死んで初めて成立するのだ。
現在イルニアは精霊の力の制御装置として生きているため血の誓約は厳密には成立しておらず、教会がルスたちに何をしても違反にならない。
(でもこの誓約、結構グレーなんよね。イルニアが生きている事がそもそも誓約の「私が死ぬ。」という部分に違反している、とも解釈できる。ただ、この誓約はどちらかというと「私が死んだら、ルスたちを自由にしてね。」というニュアンス。さらに「いつ死ぬか」は明言されてないからイルニアが今生きていても確実な違反とは言えない。血の誓約って結構面倒臭い。細かいところまで決めておかないとすぐ穴を突かれるし、違反した時の代償も大きい。)
展開色々ある。数年経つ。
ルスたちは教会の闇、そして精霊の力を独占して国への影響力を高めようという目的を知る。(ティアーニ弟の協力がある。)
ルスたちは教会に反発する。教会内で色々騒ぎが起こる。諸々全て終わって、最深部へ。
精霊の力を集め、制御する地下。
目の前の光景に、驚きで息を呑む。
そこには彼女がいた。
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