目覚めぬ君 (イルニアside、その他)
イルニアは血相を変えてルスのもとへ駆け寄る。
第三者の介入が原因立った場合、イルニアはそいつをあっさり殺す。
ルスは家の中に運ばれ、かつての彼の部屋で眠り続ける。
イルニアはいつルスが起きてもいいように、野菜スープを用意するのが日課になった。(そのスープは一巡目で一番初めにルスに振る舞ったやつ。)
ルスは眠ったまま。
一方、いつまで経ってもルスが帰ってこないことに焦りを覚えたルスの友人(青赤黄)はしびれを切らして魔女の住処に突撃。
「お前が魔女か。俺達のルスをどこにやった!!」
赤青年はイルニアに剣を向けて怒鳴る。
庭の手入れの最中だったイルニアはジョウロを持ったまま呆気にとられた。
居ずまいを正し、三人が何者でルスとどんな関係なのか訊く。(教会の人ってことは彼らの服装その他から察していたけど、一応ね。)
彼らがルスの友人だと知ると、イルニアは剣を向けられているにも関わらず、ふわりと笑った。
「あの子にはいい友人ができていたのね。良かった。」
その呟きには嬉しさとほんの少しの寂しさが滲んでいた。そして辺りを手っ取り早く片付け、玄関を開いて赤青年たちに向き直る。
「入ってちょうだい。ルスは一度眠ってから、それきり起きる気配がないの。でも、もしかしたらあなた達の声で目覚めるかもしれないわ。」
想像の斜め上の魔女の対応に、今度は彼らが呆気にとられる番だった。
イルニアと色々なやり取りをする。まだ彼女を信用できないけど、かといって教会にルスを連れて帰ることもできない。
赤青年たちは、イルニアがルスに何か危害を加えないか監視するという名目で彼女の家に週に一度通うことを提案する。
イルニアは赤青年たちと真剣に話し合った後、彼らの監視を快く受け入れる。ルスが目覚める手掛かりが見つかるかもしれないし、実はルスの友人が自分の家に来てくれて嬉しいと思っていた。
何度もイルニアの家に訪れて話をする度に、彼女が心からルスを想っていることを実感する。少しずつイルニアへの警戒心が薄れていき、終いにはイルニアの手料理を食べながら彼女と自分達のルスとの思い出話に花を咲かせるくらいの関係になった。
また、彼らが自分たちが教会に所属した経緯や本当にしたいことなども語る。
しばらく経ち、赤青年たちはティアーニ弟に毎週末どこに出かけているのか怪しまれる。教会も赤青年たちの行動を注視し始める。
半月くらい経った頃。
とうとう赤青年たちが魔女イルニアのもとへ通っているとバレる。
教会は秘密裏に部隊を率いてイルニア討伐を計画し、ある夜、実行した。
赤青年たちは裏切り者として軟禁(監禁?)されていたが命からがら教会から抜け出し、謝罪と共に教会の計画をイルニアに伝える。
イルニアは赤青年たちと未だに眠るルスを逃がし、自分はここに残ることにした。逆行を重ねたことで身体はボロボロ。魔法だって大きなものは殆ど使えない。……命だって、もう先は短い。
だから残る全てを使って、彼らを自分の二つ目の家に逃がそうと決めた。(二つ目の家とは、二巡目でルスと共に過ごした、丘の上の家。また、ルス達以外にも自分の手記や思い出の品、母が集めた本など教会の手に渡ってほしくないものも転移させる。)
それらを彼らに伝えるが、当然反対される。自分達のだけでなく、イルニアも逃げるべきだ。むしろ自分達が原因でこのような事態を引き起こしたのだから、落とし前をつけさせてくれ、と。
それでも絶対にイルニアは譲らない。ひと悶着あるが、結局イルニアの提案通りに。
彼らは何を思うのでしょうね。
先が短いと謂えど、自分たちの代わりにイルニアが犠牲になるようなものなのだから。
最後に、イルニアはルスの部屋を訪れる。
ルスは相変わらず眠ったまま。……それでも、生きているのなら嬉しい。
イルニアはベッドの前でひざまずき、頭を垂れ、手を組んで祈った。
辺りは静寂に包まれる。
祈り終わるとベッド脇のスツールに座り、ルスの頭を撫でた
あなたは覚えていないわね。
あの雪の日、私があなたを拾った時のこと。
あなたはすっかり冷たくなって、気を失っていた。私はこんな山奥で子供が倒れているなんて思わなかったからびっくりして、急いで家に連れて帰ったわ。
初めは怯えていたけど次第に笑顔をみせてくれるようになって……あなたは、私を「かあさん」と呼んでくれた。
その時から、あなたは私の生きる意味になったの。
ルス。私の大切なルス。
絶対にあなたを守るから。
何を犠牲にしてもいい。あなたが笑っていてくれるなら、それが一番幸せだから。
ありがとう。私に愛をくれて。
ありがとう。私に幸せをくれて。
あの時あなたに出会えて、本当に良かった。
ありがとう……心から愛しているわ。
……さようなら。
額にキスをしてもう一度顔を見た。
ふわりと微笑み、イルニアはそっと部屋を去った。
階段を降りると、黄青年が気遣わしげにこちらをみあげていた。
「ルスをお願いね。」
「勿論です。……どうか、貴女も……。」
「えぇ。」
小さく笑い、私は外へ出た。
遠くに人の気配を感じる。それも大勢。もうすぐここに辿り着くだろう。
私は転移魔法の準備をした。長い呪文を唱える。
(本来の彼女の魔力と実力であれば無詠唱でもいけたが、今の魔力は元の十分の一以下で複数の人や物を同時に遠い場所へ転移させるには詠唱せざるを得なかった)
巨大な魔方陣が現れ、周囲の木々を妖しく照らす。不自然に風が吹き、木の葉が舞う。
無理をして魔法を構築しているため、身体が悲鳴をあげている。
熱い。苦しい。全身の血が沸騰しているかのようだ。
遠くから金属音が聞こえる。
でも今は集中しなきゃ。
あの子たちを転移させるに。丘の上の、あの小さな家に。一度だけルスと過ごした、思い出の家に。
どうか、ルスが目を覚ましますように。
どうか、また彼らが笑い合えますように。
……どうか、幸せでいられますように。
「retore《ルトゥール》!」
魔方陣が消えるのと同時に、「ここだ!」と人間たちが現れた。
各々武器を構え、イルニアを囲む。指一本でも動かしたらすぐさま斬りかかってきそうだ。
イルニアは教会に取引を持ちかける。お前たちが望む通り、自分は死のう。その代わりにルス達を教会に連れ戻すようなことはせず、自由にしなさい、と。
すると、ティアーニ兄を護衛に一人のひょろい男が出てきた。イルニアを蔑み、横柄な態度だ。
「魔女が教会と取引とはな。本来ならば切り捨てるところだが……いいだろう。その取引、実に興味深い。聞いてやらんこともないぞ。」
男は不気味に口の端を吊り上げ、顎で部隊に魔女を拘束するよう指示を出した。
イルニアは手枷を嵌めさせられた。その間は一切の抵抗をせず、おとなしかった。
教会までの道のりは、鎖に繋がれて見世物のように町中を歩かされた。ついに忌々しい魔女を捕らえたと凱旋しているしているよう。人々から罵倒を浴びせられたり、石を投げられた。
教皇に連絡がとれるまでは教会の地下で監禁。
教会内に入る時、ティアーニ弟がイルニアを睨む。こいつのせいで先輩たちはいなくなったんだ。そう憎んでいた。
大聖堂への移動が決まると、檻に入れられる。
そのまま馬車に繋がれる形で移動。
数週間後、大聖堂に到着。教皇の元へ通される。巨大な大聖堂で二人が向かい合う。
教皇は、魔女たる彼女にも丁寧に接する。
イルニアは再び取引を持ちかける。教皇はそれに応じ、血の誓約を結んだ。例え片方が死んだとしても解消されることの無い、永久の誓約。これに逆らえば死のみである。
これでルス達が解放されると安堵し、教皇による「処刑」を受け入れるイルニア。
プツンと意識が無くなった。
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