【五巡目】

【五巡目】 イルニアside

始まりはいつも、ルスを見つけたあの冬の日。

だけどもうこの日が訪れることはない。

最後の逆行。失敗は許されない。


またルスを見つけにいこう。

外へ出て、ルスを助け出す。

老夫婦の所は駄目。(三、四巡目に幼少のルスが暮らした場所)も駄目。なら、あの子をどこへ?

ルスを抱き上げたまま、途方に暮れた。

すると、狼の唸り声が複数聞こえた。六匹、否、七匹か。こちらに気づいている。このままこの子を抱えて走って逃げるのは無理だ。少し無理してでも魔法を使って逃げるべき?迷った瞬間、狼が一斉に飛びかかってきた。


ガタンッ

思わず自分の家に転移してしまった。ルスを抱き上げたまま、その場で右往左往する。

その時。

「う、ん……。」

腕の中で気を失っているはずのルスが微かに動いた。

心臓が飛びはねる。まずい。起きてしまう。

とにかく暖炉の前のソファにルスを寝かせ、自分の外套を被せた。


薬や服を用意しに退室する。その間、ルスをどこにやればいいのか考えていた。最終的に(どこか)に決める。部屋に戻ってきた時、ルスはまだ意識が戻っていなかった。

今のうちだと思い、(どこか)に転移する。

(ギリギリ転移できる範囲だった。)

ルスが魔女狩りの部隊として私と対峙した時のことを考えると、ここで自分を覚えられるのは極力避けたかった。殺害対象は命の恩人よりも見ず知らずの魔女の方が実行するのに抵抗が少ないだろう。

ルスの指に指輪をはめた。記憶の封印が完了する。

額にキスをして、(誰か)がルスを保護するのを見届けると私はその場を去った。(帰りは徒歩。)


家に到着。

自分の手記を読み、今までの逆行を振り替える。


散々、『幸せ』と言ってきたけれど、

幸せって、何なのかしら。

私の言う『ルスの幸せ』は、誰にとっての幸せなのかしら。

ルスにとって?それとも……私にとって?

私はずっと、独り善がりの幸せをあの子に押し付けていたのかしら?今までの逆行は、全て無駄だったのかしら?

疑問ばっかり浮かんでくる。


あの子の幸せの為だなんて建前で、自分を騙しながら、言い聞かせながら、本当はただ自分の理想を求めてルスに押し付けようとしているだけなのかも。

だって私はルスに「何が幸せか」だなんて訊いていない。私は自分の勝手な想像でルスの幸せを決めつけ、その為に動いていたんだわ。

でもね。それを知っていながら、私は尚もあの子との関わりを持っていたかったの。

寂しかったから。愚かだったから。どうしようもなく、救いようがない程に。

私は指輪という細い繋がりにすがっている。

ルスを失いたくなくて、あの子を完全には手放せないでいる。


あぁでも、あの子が幸福に笑ってくれることを願っているのは本当よ。それは紛れもない私の本心。

あの子が笑っていると、心が満たされたように温かくなる。


私はいつの間にか、欲張りになってしまったのだろうか。次から次へと大きな幸せを求めて、何か小さな幸せを見逃している気がする。





……うん。今の私には書けん。

とにかく現在のイルニアの心情をまとめると、


ルスの幸せにしたい。心からそう思う。

  ↓

幸せって?

  ↓

私は、自分の理想の幸せをルスに押しつけてた?

今までの私の行動は全て自分のエゴ?

  ↓

肯定する自分と否定する自分がいる。

  ↓

自分はルスの為に何ができるのか、どうすればいいのか、わからなくなる。

『ルスの幸せのため』という芯が突然なくなって、心が崩れていく感覚がする。



さあ、このあとの展開は……?

未来の私、任せた。

ルスと再会するまで、イルニアが何をするのか未定。

怖くなって何もせずにただの日常生活を送るかもしれないし、ルスを『幸せ』にすると決意を新たにするかもしれない。

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