あなたを捜して (イルニアside)

空が白み始めた頃、私は家を出た。軽食にランタン、簡易的な地図などを持ち、まずはこの家の付近からルスの行方の手掛かりを捜し始めた。

昨夜の疲れが取れておらず、体が重い。

予想外のことばかり起こって気が動転していた。

ルスの事が頭から離れず、夜は全く眠れなかった。独りぼっちの夜は久しぶりで、今更ながらルスの存在の大きさを実感した。


しらみ潰しに探したが、手掛かりは木の実やきのこの採取具合から昨日のルスの進行方向がある程度絞れたくらいだった。

……でも、何もないよりマシだわ。

丸一日費やしても、成果は微々たるもの。何日捜せば、ルスは見つかるのだろうか。

ルスのいない家は、あまりにも寂しかった。


更に三日経った。

サディトリアル家の(物)が見つかった辺りで、もともと少なかったルスの痕跡がパッタリと無くなっていた。

もう、サディトリアル家がルスを連れ去ったとしか思えなかった。


翌日、私はサディトリアル家の本邸がある街へ行くことにした。もし本当にルスがサディトリアル家に連れていかれたなら、何か噂が流れているかもしれない。

ほんの少しでもいいから、私はルスの居場所を知りたかった。

街へ行く際、普段ルスと買い物に行っていた時のように盲目のふりをするのは危ない。流石に目を隠した人が単独で行動していると怪しまれる可能性がある。

そこで、私は母から教わった秘薬で目の色を一時的に変えることにした。

目に薬を差す為に洗面所へ行けば、憔悴しきった顔がこちらを見ていた。

「酷い顔。」

薬で瞳は青色に変化した。

準備が終わると、目的地近くの森まで転移した。


サディトリアル家のお膝元であるその街は、いつかルスと訪れたところよりもずっと賑やかだった。

どこか繁盛した大きな大衆食堂に入ろう。そこなら、何か噂が聞けるかも。

しかしなかなか情報を得られない。

他にも何軒か似たような食堂や酒場に行ったが全て無駄となった。

(もしかしたら一度だけ酔った奴に絡まれて、どっかの男に助けられるエピソードくるかも。)

夜、今日最後の酒場に入る。絡まれないよう隅っこに座り、聞き耳をたてる。

夜もふけた頃、酒場に二人の男が入ってきた。彼らはサディトリアル家に雇われている人間だった。(詳しい役職は未定だが、したっぱ。)職場の愚痴を言う。あまり詳しくは言わないけど、上司が自分達をこき使うだのもっとマシな仕事がほしいだの色々と。酒が回ると、一層愚痴は白熱する。集中して聞いていると、とある子供の話になった。


あんまり見ねえ髪色の子供ガキを御当主が養子に迎え入れたって知ってっか?その子供ガキが厄介でよ。ずっと家に返せとほざいてやがんだ。……ったく、俺らからしたら平民から一気に御貴族様になれるんだからすげえ羨ましいのによ。しかも公爵家だぜ?運がいいどころの話じゃねえってのに、あの子供ガキ、嫌だ嫌だって癇癪起こして手が付けられねえんだ。

あぁ、俺も聞いたぜ。何度も屋敷から抜け出そうとしては捕まってるんだってな。本来であればそんなヤツとっくに放り出されてるか殺されんのによ。なんでも、あの御当主様がその子供ガキにご執心なんだと。同僚の話じゃ御当主様自ら子供ガキを迎えに行ったって話だ。不公平だよなぁ、この世は。俺らはいっつも上の顔ばっかり窺ってご機嫌とりしなきゃいけねし、ヘマすりゃそれこそ文字通り首が吹っ飛びかねねぇってのに。何であんな生意気でなんの苦労もしてねえ子供ガキが優遇されんだよ。

ダンッと飲み干した樽ジョッキを叩きつけるようにテーブルに置いた。

あ~あ。全く何もかも嫌にならぁ。おい!酒もう一杯!!

はぁ、部屋に閉じ籠ってわがまま言ってりゃいいだけなんて本当にいい御身分だなぁ!子供ガキってのはよお!!おい!俺ももう一杯だ!!んなの酒飲まなきゃやってられっか!!


それから彼らの話題が変わったのを確認すると、私はそっと酒場を出た。

早くルスを助けに行かなきゃ。

そのままサディトリアル家の屋敷を目指す。詳しい場所がわからない為、高い建物の上に転移して広い敷地を持つ巨大な屋敷を探す。

……あれかしら。

貴族街の一角に他より一際広くて巨大な屋敷が建っている。転移を繰り返し、少し離れた場所で様子を窺う。高い正門にサディトリアル家の紋章が彫られている。間違いない、ここだ。


しかし、屋敷の周囲には夜警と謂えども不自然なくらい多くの見張りの兵がいた。


イルニアは空間把握の魔法でルスの場所を突き止めるが、兵(魔女狩り部隊の人間)に邪魔されてなかなか転移魔法を使えない(?)。

どうするかは未定だが、取り敢えずイルニアはルスの奪還に失敗する。不意を突かれて致命傷を負いそうになった時、パッと無意識に転移した。

(そんなことできるの?→自分の家への転移は慣れているため無意識でもできた?)


傷の手当てをしながら、冷静になって考える。

衝動的にサディトリアル家の本邸に乗り込んだけど、ルスの幸せを考えると本当にその行動が正しかったのかはわからない。

(イルニアの詳しい心の葛藤や悩みは、

『【一巡目】 ほぼメモだけど重要?』にて。)


イルニアは、断腸の思いで今の二人で暮らす幸せよりも将来ルスが人間として生きていく幸せを優先させることにした。(=そのままルスをサディトリアル家に預ける決断をする。)

涙が止めどなく流れた。ルスがいなくなってから全く泣かなかったというのに、今さら。

イルニアは幾夜も泣きあかした。


その後しばらくして、様々な街でサディトリアル家に<魔女殺しの英雄>が現れたという噂が流れた。

<魔女殺しの英雄>は、魔女にとって非常に不吉な存在。自分の命をおびやかす最たる脅威である。

ルスが、その英雄だった。

その真実を受け入れられないイルニア。

無垢で優しいルスがそんな存在だったなんて、信じられない。きっと何かの間違いだ。

そう思いたくて仕方がなかった。


……ルスに会いたい。



その願いは、思わぬ形で叶った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る