『城ヶ崎悠真の憂鬱 〜後編〜』

結果は俺達チームの勝ちだった。白熱した戦いを繰り広げた末の勝利だ。めっちゃくちゃ満足感があったし、何より楽しかった。



時間は午前五時に終わった。ぶっ倒しでやったらいつの間にか十時間くらいのやった。試合開始時間には結構な客が来ていたが、今じゃ一人もいない。



当たり前と言えば当たり前。十時間もやってたらそりゃあ見てる方も疲れるし、飽きて帰るだろうし、みんな寝てるだろうし。



俺も寝たい……のだけど。



「………透華にだけは報告しておこう」



今はアメリカにいる妹に。あっちは何時か今の頭じゃ分からないけど、とにかく連絡は入れておくべきだと思ったから俺は電話帳を開いて妹の番号をタップした。



△▼△▼




あの後、めっちゃくちゃ眠くて妹と何の話をしたのか覚えていない。そして透華がアメリカ留学に行って三ヶ月の月日が経った。



本来なら、二週間で帰ってくる予定のアメリカ留学だったのが、今回は特例として延長になったらしい。なんでも向こうの学校の都合で、急遽予定が変わったとかなんとか。



よく分からなかったが、これについては俺が突っ込む問題じゃないのでそこらへんはノーコメントだ。



そして――。



「ねぇねぇ。悠真お兄ちゃん!今日一緒に遊ぼ!」



そう言ってニコニコ笑う玲奈ちゃん。玲奈ちゃんにはめちゃくちゃ懐かれている。

最初こそ、俺のことを警戒していたものの今ではすっかり慣れたようで、いつものように甘えてくるようになった。



まぁ、それ自体は嬉しいし、可愛いからいいんだけど――。



「……玲奈、先生の邪魔になるからやめておきなさいって言ったでしょう?」



「姉さんは固い!お煎餅みたいに頭がカチカチだよ!」



こんな言い争いしてるけど、この二人、仲がいいんだよね。というか、姉妹喧嘩みたいな感じ? 玲奈ちゃんが言うように、確かに堅物ではあると思う。真面目だし、ちょっと厳しいところもあるけれど、それでも……華鈴ちゃんはとても優しい人だと思う。



「ところで、だ。玲奈ちゃん、アメリカに帰らないの?アメリカの方が楽しいんじゃないの?」



「うーん……それもあるけど、でも、やっぱり日本が好きだから。それに……悠真お兄ちゃんと一緒にいられる時間が長くなるから……」



そう言って照れくさそうにする玲奈ちゃん。そんなことを言われたらこっちまで恥ずかしくなるじゃないか……!そんな俺を見て何故か不機嫌そうな顔をする華鈴ちゃん。なんで!?



「……ほーら、姉さんもそう思ってるでしょ?素直になればいいのにさ~」



ニヤニヤしながら玲奈ちゃんが華鈴ちゃんを見る。すると、彼女はムッとした表情を浮かべた後、



「玲奈!ささっと、聖フローラ学園に戻る準備をしなさい!」



と言って部屋を出て行ってしまった。その様子に苦笑いしていると、



「もう!姉さんったら!ほんとは悠真お兄ちゃんと一緒にいたいくせにね!」



と呆れたような口調で言う玲奈ちゃん。俺と一緒がいいって……本当にどういうことなんだろ? 不思議に思っていると、



「れ、玲奈。先生を揶揄うのはよしなさいよ」



なるほど。揶揄われていたのか。まぁ、そりゃそうだよな。



「えー?だって本当のことだもん。姉さんも悠真お兄ちゃんのこと好きでしょ?私知ってるんだよ?」



「…そ、そりゃあ……好きだけど……」



……そう言いながら、華鈴ちゃんは顔を赤くし、俯き始めた。…これもしかして揶揄われてる……?玲奈ちゃんも華鈴ちゃんも演技上手いし……



まさか……。

なんてことを考えていると、玲奈ちゃんがこう言ってきた。



「もういいわ。姉さんのバーカ!バーカ!」



子供っぽい言い方をしながら玲奈ちゃんは去っていった。



△▼△▼




あれから三ヶ月が経った。二週間しかアメリカ留学しか来なかった予定の透華だったのが、『延長します!』と言い出したのだ。留学をそんなカラオケの予約みたいな感覚で留学期間を延長できるのか疑問だったが、そこは深く考えないようにした。

というわけで、透華は今、アメリカにいる。そして、俺はと言うと――。



「城ヶ崎悠真!今日も勝負だ!」



毎日のように俺に絡んでくる伊集院くんに絡まれてます。しかも、ここ最近はほぼ毎日だ。いや、俺は全然構わないんだけど……伊集院くんと野球するのめちゃくちゃ楽しいし。



「悠真先輩。冬馬がすみません。最近、ずっとあんな調子でして……」



「西園寺……別にいいよ。俺、こういうの嫌いじゃないから」



申し訳なさそうにしている西園寺潤。中一で生徒会に入っていて、次期生徒会長候補と言われているらしい。まだこの子中一なんだよね……それでいてみんなのフォローしたり、まとめたり、勉強教えたり、めっちゃくちゃ偉いと思う。



それでいて親友のフォローをしてくれるんだから凄い。俺なら絶対に親友のフォローなんてしない。絶対面倒臭くて投げ出すし。



そして――、



「私からもごめんなさい。悠真くん。冬馬のことは私が責任を持って指導しておくから」



そう言って俺に向かって頭を下げる九条。いや……そこまでされると逆に困るんですけど。それに俺もノリノリでやってる部分があるし。



「本当、気にしなくていいから」



俺はそう言ってその場をやり過ごして、野球の試合をしたのだが、結果は伊集院くんの勝ち。めちゃくちゃ悔しかったが、それよりも楽しかったし。



でも、今日は――、



「香織。今日は勝てたぞ!俺の完全勝利だ!」



そう言いながら、伊集院くんは得意げに九条にそう言っていた。九条はそれに対して、苦笑いを浮かべている。それ自体は別に日常茶飯事なのでどうってことはない。

ただ、今日はいつもと違うことが一つだけあった。それは――、



「……っ!九条危ねぇ!」



車が校門の前に車が突っ込んできた。咄嵯の判断で、俺が庇うように九条を庇った。



「悠真くん!?」



九条の声を最後に俺は闇の中へと落ちていった。

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