『シャーロット・グレイの日常 〜前編〜』
私――シャーロット・グレイは、何不自由なく育った。
幼い頃から勉学やマナーを厳しく叩き込まれてきたけれど、特に苦に思ったことはない。
むしろこの厳しい教育のおかげで、私は誰よりも美しく気高い淑女となることができたのだと思っている。
両親も祖父母も使用人も、皆が私のことを褒め称えてくれたし、それが当然のことなのだと思っていた。だけど……
「あんた生意気なのよ!ちょっと成績が良いからっていい気にならなくて!?」
きっかけは些細なことだったと思う。
その日は、学年一位の成績を修めたことに対する賛辞の言葉を受け、いつものように笑顔でお礼を言っただけだった。
それなのに、目の前にいる少女達は突然怒り出し、私に向かって暴言を浴びせてきたのだ。
なぜ自分が罵られているのか理解できず呆然としていたけど、このときはまだましだ。酷いことになったのは――、
「やぁ。シャーロット。こんなところで会うなんて奇遇だね」
アベル・エイヴァリー様との出会いだった。彼は、学園の王子様であり、女子生徒の人気を一身に集める方だ。そんな彼が、私の名前を呼び親しげに声をかけてくださったのだ。
そして何故か私のことを気に入ってくれたらしく、それからというもの何かと声をかけてくださるようになった。
最初は戸惑っていたものの、彼と過ごす時間は楽しくもあり、次第に心地良いものになっていった。
しかし、周りはそんな私のことを良く思わなかったようだ。
「あなたのような方が、あの方の傍にいる資格があると思って?」
「身の程を知りなさい!」
そんな言葉を投げかけられるようになり、次第に陰湿なものへと変わっていった。
時には直接危害を加えられることもあったため、教師に相談してみたもののそれすら妨害され、結局何も変わらなかった。
だから私は諦めた。何を言っても無駄だと悟ってしまったのだ。
そんなある日のことだった。
アベル様の取り巻き連中が、いつものように体育館裏へ呼び出していた私の元へやっていつもの如く、暴言を吐き始めたのだが――、
「(ああ。はいはい。いつものパターンですね)」
私はうんざりとした気持ちになっていた。どうせこの後暴力を振るわれてしまうんだろうなー、と思いながら黙っていると――、
「ちょっと。あんたら、女の子に対して何やってるの?見ていて気分が悪いんだけど」
そこに現れたのは、美しい少女だった。
長く伸ばした黒髪をポニーテールにした彼女は、腕を組んでこちらを見ている。
「今の全部録音したからねー」
彼女がそういうと、アベル様達の取り巻き連中の顔色がみるみると青くなって去っていく。助かったことに安堵したがそれと同時に――。
「(……この子がターゲットにされたら嫌だし、もう関わらないようにしよう)」
関係ない子を巻き込むわけにはいかない。そう思い、
「……なんで助けたの?」
わざと冷たく言い放つ。すると彼女は大きく目を開き驚いた顔をしている。そりゃそうだろう。助けたのにこんな態度を取られたら誰だって驚くはずだ。だけど――、
「私一人じゃあいつらに勝てないっと思った?余計なお世話よ!」
そう言ってその場を去った。後ろから『なんなのよーーー!』という叫び声が聞こえたが無視した。
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