『白咲花音は復讐がしたい! 〜後編〜』
彼女――城ヶ崎透華の第一印象は『美人』だった。私――白咲花音の妹なんだから美人なのは当然なのだが、それを差し引いても彼女は美人だった。
黒髪ロングヘアーで身長は平均より少し高いくらいだろうか。顔つきも整っていてとても美人だと思う。
あと胸が大きかった。中学三年生の癖に大きいのだ。格好は至って普通なのだが、それでも彼女の胸部の膨らみには目がいってしまう。
だが、発言が面白くなかった。私に怯えていたのはいい。寧ろ、可愛い反応したし、『お兄様のことが好きなの?』という質問も予想外だったし、ここまでなら面白いと思えたのだが、問題はそこではなく、私の提案を断り『破滅が怖い』と言い出したときだ。
あの時私は呆気に取られて何も言えなかった。私の誘いを断った人間は今まで一人もいない。なのに、この女は断った。その事実が信じられず私は固まってしまった。
だから私は城ヶ崎透華を突き放し、もう二度と会わないことに決めた。あんなのが妹だなんて信じたくない。それに私にはやることがあるんだ。こんなところで時間を潰している場合じゃない。
だから私は独断で九条香織を殺すことにした。だってあの女は全てを持っている。あの女を殺さないと私が報われない。私は自分の為に動く。ただそれだけの話……なのだが。
「おい、香織。こいつ殺した方がいいと思うんだけど」
「駄目よ。冬馬。殺すだなんて物騒なこと言わないで頂戴」
――あっさりと捕まってしまった。私は今、拘束されている。手足に縄を掛けられ、床に転がされてる状態だ。全く身動きが取れない状態だ。
「白咲さんは面白い人よ。殺すだなんてそんな勿体無いことしないわ、寧ろ逆。私は貴方と仲良くなりたい」
「「……はぁ?」」
私と伊集院冬馬の声が重なった。意味が分からない。こいつは何を言っているんだ?
「香織……お前何言ってんの?」
ドン引きしながら伊集院冬馬はそう言った。本当に理解できない。どうして私なんかと友達になりたいのか、本気で分からなかった。
「私、可笑しいこと言った?普通に考えて仲良くなるのが一番良い方法だと思わない?」
「お前を殺そうとした相手だぞ!?仲良くなれる訳ねーだろ!」
伊集院冬馬が怒鳴った。まぁ、私もそう思う。自分を殺そうとした女なんて私なら置いておきたくない。でも、この女には――。
「どうせこの状態じゃ私を殺さない。殺そうとしてもまた返り討ちに出来るし」
断言した。私の攻撃なんて容易いもので、簡単に返せる……と言ったものだ。それに腹が立った。確かにそうだが……。悔しかった。
「ほら、図星でしょう?だから私はこの子を殺したりしないわ」
滑稽だ。私のことを、無力な少女のように見ている。――それが堪らなく屈辱的だった。
「うるさい……!私の気持ちがあんたなんかに!何もかも持ってるあんたなんかに分かるか!!」
私は声を上げて叫んだ。生まれて初めて他人に対して大声で感情をぶつけた。ずっと羨ましかった。私が虜にした男どもは皆、九条香織のことを見ていた。
奪われ、何もかも失った。その悔しさが今でも残っている。私は怒りに任せて叫んだ。
「殺せよ!殺した方がいっそ楽になれたのに!なんで生かすんだよ!?」
私は涙を流しながら叫んだ。もう、自分でも何を叫んでいるのかよく分かっていなかった。
それでも九条香織は動じず、寧ろ興奮した様子でこう言った。
「その顔。貴方のその顔が見たいからよ?」
「ええ……」
その返事に対し、ドン引きする伊集院冬馬と私。この言葉を聞いた時、一気に殺す気が無くなっていった気がした。
「私、他人の苦しむ姿が好きなの。だって背徳感あるし」
「………苦しむ姿?まさか悠真と付き合ったのも……?」
私は震えながらも訊いた。すると彼女は当然という風に答えた。
「うん。最初はただ単に彼のことが好きだったのよ?でも、彼の泣き顔凄くキュンとしてね?もっと見たいなぁって思ったわけ」
彼女の言葉を聞き、伊集院冬馬の顔が一気にうわぁ……といった感じになっている。私も同じ気持ちだ。そして私は彼女に問うた。
「……あ、あの……もう貴方のこと狙わないんで見逃して貰えないでしょうか……?」
情けないことに、恐怖心が勝って敬語になってしまった。だが――。
「駄目よ?私を狙ったんだもの。最後まで責任取らないと、ね?」
そう言って私の顎を引く九条香織。彼女の目は獲物を狙う肉食獣の目だった。……思った以上に厄介な人を殺しのターゲットにしてしまったかもしれない。
私はただ後悔した。
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