『白咲花音は復讐がしたい!〜中編〜』

「…………いや、どうして?」



突然のお願いに戸惑いを隠せないようで、彼は首を傾げながら私に訊いてきた。



そりゃそうだ。いきなり初対面の人にそう言われたら戸惑うだろう。ましてや、今日初めて話したばかりなのだから。



でも、私はどうしても確かめたかった。今更になって確かめる理由も無ければ必要性もないのだが……それでも何故か確かめなければならない……という気がしたのだ。

だから私は、素直に思ったことを言うことにした。



「なんとなくね。駄目かしら」



「いや、駄目とかそんな話をしている訳じゃなんだけど……単純に疑問なんだ。俺の妹に何か用があるのかなぁって思ってさ」



「別にないわ。強いて言えば、一目見ておきたいと思っただけよ。どんな子なのか気になったから」



訝しげに、どこか怪しんでいるように私を見つめてくる城ヶ崎悠真。まぁ、無理はない。こんなこと言われても納得できないだろうし、私だってこんなこと急に言われたら納得はしない。



でも。



「俺らこれが初対面だよな……?急に話しかけて来て、妹に会いたいなんて言われても……」



「困るって?ふふっ。本当何にも覚えてないのね?城ヶ崎悠真」



嘘だ。本当は私と彼との間に思い出なんて何もない。でも、人間というのは不思議なもので、堂々とそう言われると自分の方がおかしいのかと思ってしまうものだ。

案の定、彼は動揺していた。



「え、ど、どういうことだ……!?」



「あんなに優しくしてくれたのに。あの行為も全部嘘だったのね?悲しいわ。……悲しくて涙が出ちゃう」



わざとらしく目元を抑えた。勿論泣いてなどいないが、泣き真似ぐらいならできる。



「い、一体君は誰なんだ……俺は君なんか知らないぞ!」



「忘れてしまうくらいどうでもいい存在だったのね……あの日のことも全部嘘

だったというわけね。あーあ、ショック」



今度は分かりやすく落胆してみせる。すると彼は慌て始めた。



「ちょ、ちょっと、待ってくれ!なんでそんな事に……!お、俺が悪いのか……?」



「私、貴方の妹と会ってみたいの。それさえ叶えられば何でもいいの。ねぇ、早く案内してくれないかしら?」



半端脅しのような感じになってしまったが、今は仕方がない。城ヶ崎悠真の性格なんて知らないし、彼がどういう人かも分からない。



でも、こうすればきっとなんとかなるはずだ。

私がそう思っていると、彼の方から口を開いた。



「わ、分かったよ……なんで妹にそんなに会いたがるかは分かんないけど……ただ……その急には無理だ……」



「ま、それもそうよねぇ。なら、連絡先交換しましょー。はい、スマホ出して」



「……え?ああ……そ、そうだな……」



渋々といった様子だが、彼は私の言う通りにスマホを取り出してくれた。これでとりあえず連絡先は手に入ったことになる。



「よしっと。……じゃあ、明日喫茶店で待ってるね?」



「は!?明日!?」



「うん。詳細は連絡するからねー。じゃあねー!」



そう言って私は半端強引に話を切ってこの場を立ち去った。




△▼△▼




あれから結構、彼……城ヶ崎悠真と話をした。彼の話は結構面白く、趣味も合った。そして、話しているうちにどんどん楽しくなっていた。



ただ、一つを除いて。



「それでさ……九条が……」



九条香織の話をするときだけは面白くなかった。ただ単にムカつくのだ。



だって……あの女は私にないものを全て持っているから。それが嫌だったのだ。だから――



「ささっと妹に会わせてくれない?城ヶ崎くん」



結論を急ぐことにした。本来なら二回目に言う言葉だったのだが一回目は趣味の話をして楽しかったため、つい忘れてしまっただけだ。

それに今日会ったばかりでこんなことを言うのはどうかと思うが、この際気にしないことにする。



「あ……そういや、そうだったな……」



「ええ、そうよ?ささっと会わせて、ね?」



そう言うと、彼は困ったように頭を掻いたが、とりあえず了承してくれた。

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