『白咲花音は復讐がしたい!〜前編〜』

今回の話はざまぁ要素があります。苦手な方はご注意ください。


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私――白咲花音は何でも完璧に出来た。勉強も運動も家事も稽古も音楽も、そして恋愛だって私にできないという文字はなかった。



反対に自分でも自覚している程に性格は悪いと思う。でもそんなのは些細な問題だ。



何せ私の容姿はこの世のものとは思えない程に美しいからだ。街を歩けば誰もが振り返るし、街に出れば芸能事務所やモデル事務所からのスカウトなんて日常茶飯事だったし、塾に行けば周りの男達は皆が私に夢中になった。



だから私の周りには人が絶えなかった。

いつも誰かが側にいて、常に羨望と憧慕の眼差しで見つめられていた。

私はそんな環境で育ったし、これからもずっとそうなんだと思っていた。

あの時までは……



△▼△▼



中学生になったあの日、母親からとんでもないことを聞かされた。

それは私が両親と血が繋がっていないという事実だった。



その時の父の顔はとても複雑そうだったけど、それでも私には真実を教えてくれた。何でも、家庭の事情とかいうヤツらしい。



決して浮気ではないらしいがそこら辺はあまり詳しく聞けなかったし、聞きたくなかった。興味がなかったからだ。

まぁ正直なところショックを受けたというより、どこか納得したというのが本音だ。



だって私の周りって醜い奴ばかりなんだもん。

顔立ちだけはいいけど中身は空っぽな人間達だ。母だって例外じゃない。涙を流せば男が助けてくれると思ってるような女だしね。



だから私は特に何も思わなかったし、特に追求するわけでもなく、ただ静かに事実を受け入れただけだった。



「あ、あのね……花音……貴方には妹がいるの。城ヶ崎透華っていう名前の妹よ……」

 


「……そう」



特にそれ以上言うこともなく、私は部屋に戻った。

正直、もうどうでもいいことだと思ったのだ。今まで通りの生活を続けていけるならそれでよかった。今まで通り男達と適当に戯れていれば……と、このときの私はそう思っていた。





両親と血が繋がっていないと聞かされたあの日から変化が訪れた。まず、あれだけ群がっていた男達が全くと言っていいほど寄ってこなくなった。



理由は単純。塾に新しい女が来たのだ。名前は九条香織。優しく、可愛く、頭もよくてスタイルも良い完璧な美少女だ。

彼女が現れてからというものの男達は全員彼女にご執心になり、私に興味を示すことが一切なくなってしまった。



しかもそれだけじゃなく、彼女はその美貌を武器に瞬く間にクラスの中心となり、クラスのアイドルとなった。



つまり、私は完全に居場所を失ってしまった。しかもタチが悪いのは彼女は無自覚だということだ。

それなのに男子達の好意を一身に受けているのだから質が悪いったらない。



しかも男だけではなく、女からも好かれていた。彼女の周りは常に人が集まり、常に笑顔に包まれていて、まるで太陽のようだった。

だからだろうか?余計に腹立たしかったのかもしれない。



こんなに才能を持っているはずなのに、それを活かすどころか自覚すらしていない彼女が憎くて仕方がなかった。正直言って殺したかった。だけど出来ない。



何せ――、



「おい、香織!帰るぞ!」



年下のイケメンまで手玉にとっている始末なのだから。塾で帰る時間になるといつも彼は九条香織を車に乗せて帰っていく。



確か彼の名前は伊集院冬馬と言ったっけ?彼もまた九条香織の虜になっている一人であり、そして彼女のことを好きだと公言している人物でもある。



そして伊集院冬馬のせいで男どもは九条香織とゆっくり話せないため、最近では彼女と話す機会すらなかったのが不満なのか、ここ最近になって彼らは私に対してまた興味を持ち始めたようで近付いてくるようになった。

はっきり言おう。ウザイ。



別に私に対して媚を売るのはいい。それは快感だったし、優越感に浸れたから。でも、これは『九条香織』の代わりとして見ているだけだということを知っていた。



何が悲しくてあんな奴の代わりを私がしなくてはいけない。そんなの死んでも嫌だ。

私はあいつが嫌いだ。だから、私は決意した。絶対に復讐してやるって…そう決めていた。



△▼△▼




復讐したい。何もかもに。私の人生を滅茶苦茶にした両親に、私の居場所を奪ったあの女に、全てを奪っていったこの世界そのものに……



そう決めたのは中学生になってからすぐのことだった。よく考えてみれば両親も、そんなこと言うべきではなかった。言ったとしても、高校生になるまで黙っておけばよかったのだ。

今更何を思っても遅いのだが、それでも思うことくらいはある。



だから私はまず両親に復讐した。……と言っても殺してないよ?流石に私もそこまで薄情ではない。ここまで育ててくれた親を殺すなんてことはしないし出来ない。



それに生き地獄を見せてやろうと思ったのだ。だって父は会社の金を持ち出し、横領していたのだから。この事を知ったのは中学生になる少し前のことだが、知った時は本当に驚いた。



でも、黙っていることにした。だって私がしたことじゃないし、そもそも両親の血が繋がっていないという衝撃の事実を聞いた後だったので特に何も思わなかったからだ。



でも、今ここで終わりにしようと思う。私は会社にそのことを伝え、健気で儚い悲劇のヒロインを演じた。

まぁ、その後案の定会社は父をクビになり社会的制裁を加えたわけだ。



当然、父は激昂した。今まで私の前で見せたことのない表情を浮かべながら私を怒鳴りつけた。

でも、関係ない。全部自業自得なのだから。



今まで育っててくれた恩はあるので金だけは置いておいてあげた。これで当分は生活できるだろうの額を。それ以上はもう関わらないし、関わりたくない。



そして次は塾にいる取り巻きどもの復讐だ。取り巻きの癖に、九条香織の方がタイプ、とか抜かしている勘違い野郎達はある意味九条香織より許せない存在だ。



だから私は男どもに甘い蜜を敢えて振り撒いた。依存させ、甘い言葉を振り撒いき、振り向かせ最後に裏切った末に社会的に抹殺してやった。



男共は完璧に薙ぎ倒し、私に惚れる男がいなくなると今度はあの女を殺したいという欲求が芽生えた。



あいつらとは違う。両親のように生き地獄にも、男共みたいに社会的に抹消させるのではなく、この手で直接命を奪いたい。



つまり簡単には殺させないということだ。ゆっくりじっくり「死」という恐怖に怯え、絶望しながら死ぬ。



それが一番望ましく、私の希望だ。だからまずは邪魔な伊集院冬馬を消すことにしよう。

彼の情報は調べればすぐに出てきた。どうやら彼は伊集院家の跡継ぎらしいが、その座に興味はなく、自由奔放に過ごしているようだ。



そして彼は九条香織に夢中であり、彼女の為なら何でもするということだ。ただ、伊集院冬馬を操ろうとするのは至難の業だろう。何せ、九条香織に夢中なあまり、彼女の言うことなら大抵のことは聞いてしまうのだ。



他の馬鹿で無知で無能な男達と違って、あの男は有能で頭が良く、容姿も優れている。正直言ってかなり厄介だった。



だが、九条香織のことになるとすぐ行動に出るところは長所でもあり短所でもある。



そこを上手く突ければ勝算はあるはず……と、思っていたが、そもそも、彼とそんなに接触することがなかった。

伊集院冬馬も警戒心が強いのか、女と二人っきりになることを避けている節があった。



つまり、九条香織以外の女には近づかないし、近寄らせようとしない。それこそ、あの女は例外中の例外として扱われていた。



それに羨ましい、という声はあるものの、『香織様ならしょうがないか……』と諦められている様子もあった。



でも、それでは駄目なのだ。私が欲しいのは九条香織の絶望顔で、九条香織の泣き叫ぶ姿なのだから。だから九条香織の好きな人を調べた結果――。



「……城ヶ崎悠真……ね……」



彼の名前が浮上したのだ。憶測だけで確定ではなかったが、恐らく間違いないだろう。故に私はそれとなーく、彼に近寄り探りを入れてみた。すると、



「え!?九条と俺がお似合い!?何言ってるんだ!?九条に失礼だろ!!」



……わかりやすい反応。やっぱりこいつは九条香織に恋をしている。……つまらない。これで好きじゃなかったら良かったのに。



どんどん城ヶ崎悠真に興味がなくなっていき、彼に対する興味も消えていった。

だけど、



「あ…すみません。妹から電話が来たんで、ちょっと出てきます」



偶然、彼と一緒にいる時に彼の妹から連絡が来た。電話越しに『透華』とそう呼んだ。不意に、母親が言っていた言葉を思い出した。



『あ、あのね……花音……貴方には妹がいるの。城ヶ崎透華っていう名前の妹よ……』



長らく忘れていた名前。会うことはないと思っていたし、会いたいとも思っていなかった。

なのに、どうして今になって思い出したのだろうか……?そんな疑問が頭を過った。


分からない。ただ――。



「ねぇ、貴方の妹に会わせてくれない?城ヶ崎悠真くん」



私は無意識のうちにそんなことを口走っていた。

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