『水瀬美月の覚悟』

私は日頃から記憶力が良かった。いつも誰かを言っている言葉を自然に覚えられていた。だから、何気なく私は接してるつもりだった。なのに――



「好きです。付き合ってください」



そう言って告白してきた男の子の告白を断った私は虐められた。最初はその男の子が原因だったような気がする。


だけど次第に目的は変わってゆき、ただストレス解消の為だけにいじめられた。あの時はただ単純に悲しくて泣いた。でも、私は耐えた。耐えたらきっと飽きて辞めてくれるはずだと信じていた。だけど辞めてくれなかった。だから中学は絶対にあの人達とは違う中学に行こうとそう思った。



結局、卒業するまで嫌がらせは辞めてくれなかったけど、もうどうでも良かった。ただ、私は逃げたかっただけだからだ。そして中学に入り今度こそ!とそう思っていた。……初めの頃は上手くいっていたとそう思う。誰にも優しくて、だけど期待させないように気を遣ったりして。私としては配慮しているつもりだった。だけど……



「美月ってさ、八方美人だよね」



「わかる~!いつも人の相談ばかり聞いてさ。誰の味方なんだろうね?」



私は勘違いしていた。私は前より友達に配慮しているとそう思っていたのに。



その日から私は影で『八方美人』や『偽善者』、『都合の良い奴』などと言われるようになった。……違う。私は別にそんなつもりでやってるわけじゃない。皆んなの力になりたいだけなんだ。なのにどうしてこうなるの!?︎……嫌だ。怖い。助けて欲しい。辛い。苦しい。悲しい。寂しい。



そんな感情に押し潰されそうになった時もあった。だけど、それでも私は頑張っていた。頑張ればいつか分かってくれると信じて…………だけど現実は非情である。どれだけ努力しても何も変わらなかった。むしろ悪化していった。誰も信じれなくなった。誰も頼れなくなった。信じられるのは自分と幼馴染だけだった。だけどそれを表情を表に出さなかった。



だって勘付かれるのは一番嫌だから。みんな表面上だけは私に思っていないことを言っているから。だけどこの前、伊集院様に用があると西園寺様に言われたとき、流石に爆発したのかみんな私の悪口を言っていた。涙は出なかったしむしろまたか、と思った。


用は委員会のことだったし、そんなので悪口大会されられるのだからたまったものではない。勿論、伊集院様は何も悪くないけど。だからささっと終われ……と思いながら、死んだ目でドアの向こうで待っていたそんなとき……


「うるさい!って言ったの。そんなことも分からないの?いつもいつも同じ話聞かせやがって!それしか話題がないの?美月さんのことだって逆恨みしているだけじゃない!」



そう、言われた。……正直驚いた。まさか自分の為に怒ってくれているなんて思ってもなかったから。そこから少し会話を聞いているとその女の子は私の事を庇っているようだった。


その後も何かしら文句を言い続けていて……嬉しかった。今まで感じたことの無い気持ちになった。そして噂なんて本当にアテにならないとそう思った。



だって私を助けてくれた透華様は小学生の頃はクラスのボスと呼ばれ、ありがとうも言わずにそれを当然と言った態度の女の子と聞いた時絶対に関わらないようにしよう、とそう思った。だけど今の私には恩人だ。噂になんて惑わされずにしよう、と思いながら目を閉じた。



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透華様とはまだ友達ではなかった。学校では話すけど別に遊びに行くとかそんな関係ではなかった。……あのときまでは。きっかけは本当に些細なことだった。



「――――」



「透華様!?」


透華様が気絶したのだ。原因は虫だ。虫が透華様の髪についたのだ。急いで保健室に連れていったのだが先生がいないとのことだったのでとりあえずベッドの上に寝かせたが私には次の授業があるので私は透華様を保健室に残して教室に戻った。授業が終わり、真っ先に私は透華様の元へと行くと丁度透華様は目を覚ましていた。



「透華様は虫を見て気絶なされたんです。なので私が保健室まで運んでいきました」


私がそう言うと、透華様は驚いたように私を見ていた。そしてやがてクスリと笑うと、透華様はこう言った。



「――美月さんは優しい人ですね」



「や、優しい……?」



急に褒められたものだから驚いてしまった。だけど、そんな褒められることではない。自分としては当たり前のことをしたまでだし……。



お互いに謝罪の言葉を口にした後、なんだかおかしくなって笑ってしまった。こんなこと初めてだ。それから私たちは仲良くなった。今では毎日一緒に帰るようになったり、お互いの家に遊びに行ったりする仲にまで発展したのが何より嬉しかった。だから……



「私は透華様の隣に立つに相応しい人間になるためにもっと強くならないといけないんです……」



そんな決意を固めて、私は拳を握った。

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