当て馬ポジションに転生してしまった件について〜番外編〜

かんな

『月坂美穂の苦難』

女子は面倒くさい。トイレに行けばゾロゾロと付いてくるし、真似事ばかりするし。そういうのを断っていったらいつのまにか私は孤立していた。そんな自分が気に入らないのか、影で「あいつは目障りだ」と悪口を言っている者がいた。だけど私は気にしなかった。むしろ、またか……とうんざりしているだけの日々だ。そんなある日の放課後……



「月坂先輩!!」


 

振り向くとそこには見慣れない男がいた。先輩と言ったことから、後輩だということはわかったが……



「何?私忙しいから手短に済ましてもらえる?」



冷たくあしらった。大概私がそういうとみんな逃げるというのに男はめげずに話を続ける。



「実は俺、月坂先輩に憧れているんです!その何にも興味を示さないクールなところが!」



どうやらこの男は私のことが気に入っているらしい。

だが、憧れられるようなことは何もしていないし、そもそそれに、私はこんなことで時間を使うほど暇ではないのだ。



「だから…!俺を弟子にしてください!」



「……は?」



まさかの言葉に私は言葉を失った。というよりなんで私がこいつの師匠になってあげないといけないんだ……



「嫌よ。私に教えられるものは一つもないわ」



「ありますよ!月坂先輩の強さの秘密とか!」



しつこく食い下がるそいつを見て私は呆れた。早く帰ってゴロゴロしていたいというのに……それに……私は…



「……私なんかより強い人なんていっぱいいるわ。そいつらに聞く方がよっぽど効率的だし、お互いに時間を無駄にしない思うわ」 



私はそう言って立ち去った。



△▼△▼




あれから、数日が経った。毎回追いかけてくるものだから、撒くのが大変だった。今日は追いかけてこないらしいから諦めたのだろう。お陰で今日は安全に家に帰れるのだけど……



「あ、美穂~!今日アルバイトの人が来るのよ~!挨拶しなさいよ!」



私の家はフラワーショップ『Rose』というお花屋さんを経営している。私はそのお手伝いだ。金も貰えるし、花は好きだし。いいこと尽くしだ。そう思いながら私はお母さんにこう言った。



「ああ……そう。お母さんが言ってた子?」



「そうなの!花が好きだって言うし、何より可愛かったのよ!」



「へぇ……」



お母さんがこんなに興奮して言うのだからかなりの美少女なんだろう。そう思いながら花の手入れをしていると、



「あ、美穂!来たわよー!」



噂をすれば……って感じね。さぁどんな娘なのかしら? ガチャッ!!︎ 店の入り口の方を見るとそこには、昨日私を散々追いかけ回した男の子がいた。固まっている私などお構いなしにハイテンションでお母さんはこう言った。



「この子の名前は高梨瑛太君!これから一緒に働く仲間になるから仲良くするようにね~」



こうして私は、彼とバイトをする羽目になった。




△▼△▼




「びっくりしました。月坂先輩の家だなんて……花は好きだったのでここにしたんだけどここにして正解でした!」



「そう……」



私は最悪だけどね……これからバイト仲間として見なくちゃいけないなんて……厳密に言えば私はバイトではなく、手伝いだがそんなの大した差は無いし。



「月坂先輩?」



そんなことを思っていると、彼は不思議そうな顔で私を見つめていた。何もわかってなさそうな顔をしている……そんな表情にちょっとイラッとした。イラッとしたから私は彼にこう言った。



「……高梨……だっけ?あんたの名前」



「え!?あ、はい!高梨瑛太です!」



いきなり名前呼びしたことに対して驚いてる様子だったけど、今は気にしないことにした。そして私は彼に言い放った。



「花の手入れしておくから…高梨は接客しといて」



彼の返事を待たずに私は花の手入れをしていた。高梨は戸惑っていたけど接客をしている。これで少しは落ち着けそうだ……。そしてあれから数時間が経った。……なんだか今日は花の注文が多いような気がする。流石にちょっと気になってチラッとスペースの方を見た。見るとそこには忙しそうにするお母さんと高梨がいた。……これは手伝った方が……いいのかもしれない。



「……定員さーん、お会計してくださーい!」



「あ、はい!ちょっと待ってください!」



……本当に忙しそうだ。ここは私がしよう。……ちょうど花の手入れ終わったし、何よりお客さんを、待たせるのは一番やってはいけないことだ。そう思いながら私はレジへと向かった。





「はぁ……今日は売れたわー!過去最高じゃない!?瑛太君凄いわ!」



お母さんは高梨を褒めちぎった。確かに今日はよく売れて、売り上げも上々だった。その点では素直に感謝しないといけない。でも私としては複雑な気持ちでいっぱいだった。



「……た、たまたまですよ!たまたま!」



「あら~、謙遜することないのよ?」



そう言いながらお母さんは微笑んでいる。本当に嬉しいんだろうな…ただ、毎日こんな忙しさは勘弁してほしいけどね……人件費はあまり掛けたくないし。



「この調子で明日もよろしくね!」



そう言ってお母さんは笑いながらこう言った。



「あ、そうだ!美穂!瑛太君のこと送ってあげなさい!」



「は?なんで私が……」



「こんな可愛い子一人で帰すわけにはいかないでしょう?」



可愛い子って……こいつは男なんだけど……それに今日はもう疲れたから早く部屋に戻りたいんだけど…… そう思っていたら、高梨が申し訳なさそうにこう言った。



「あ、あの!俺なら大丈夫ですから!」



「ダメよ!」



お母さんは頑固だ。こうなったら意地でも聞かないし、これ以上こうしていたら無駄な争いをする羽目になる。即ち……



「分かったわよ……送るわよ」



私が折れた方が早いのである。するとお母さんは嬉しそうな顔でこう言った。



「お願いね、美穂!」



「はいはい……」



こうやって私は高梨を送ることになった。

帰り道の途中にある公園に差し掛かった時、彼は申し訳なさそうにこう言った。



「すみません」



「……別にいいわよ。お母さんは頑固な性格だから私が折れた方が早かったし」



そう言うと高梨はホッとした表情を浮かべた。



「……あ、俺ここら辺なんで!送ってくださってありがとうございました!」



「…ああ、そう。じゃあね」



「はい!また明日会いましょう!」



そう言って高梨は手を振っていた。




△▼△▼




翌日、私はサボっていた。理由はただ単純にダルかったからだ。昨日の疲れが今になってドッときている。そんなわけで屋上まで来たわけだが……



「キャハハハ!今度はどうする……?高梨くーん。まずは蹴る?それとも……」



そんな声が聞こえてきた。見てみると沢山の人が、みんなあいつ……高梨のことを蹴っていた。それを見た時私は関わらない方がいい。また巻き込まれるのはごめんだ。でも……



「何をしているわけ?」



気づけば私は男子達にそう声をかけていた。自分でもバカだな、と思う。だけど、もう戻れない。私は彼らは振り返って睨みつけた。その中の一人には見覚えがあった。確か同じクラスの……誰だっけ…まぁ、いっか。

それよりも今はこいつらをどうにかしないと。

私は彼らに近寄っていく。その度に高梨は怯えたような顔になる。



「…恥ずかしくないの?こんなことして」



そう言うと一人の男子生徒がにっこりと笑いながら答えた。



「てゆうか……月坂さんも、彼のことうざいとそう思ってるんじゃないの?だから、彼のこと無視したりしてたのでしょう?弟子にしてくれとか言ってたし」



同じクラスの男子生徒がそう言った。そうだ。私はこいつのことうざいとそう思っていた。だから、私はこう言った。



「……それは否定しないわ」



「なら、俺らのしていること見逃してくれない?」



ふざけたことを言い出す。私が見逃すとでも思っているのか。私は続けてこういった。



「…確かに私はこいつのこと無視していたわ。うざいと思ってたのは否定しない。……だけどこれは見過ごせないから」



「いい子ちゃんだねぇ。俺ら女の子でも手加減しないよ?」



そう言って一斉に私に向かってくる。多分五人ぐらい。私なら勝てるだろうけど……

その時だった。突然誰かが私の前に飛び出てきて、そいつらの蹴りを受け止めた。それは紛れもなく高梨だった。

どうして……?私は驚いて何も言えずにいると高梨は言った。



―――俺は大丈夫ですから。だから、先輩は逃げてください。



高梨は優しい笑顔でそう言った。私は大丈夫だと言ったのに高梨は駄目です!早く!と言われて私は職員室へと走った。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





それから私は逃げて先生を呼んだ。高梨はそのあと保健室に行ったらしい。それを聞いて私は急いで保健室に走った。そしてドアを開けるとそこには……いつもの笑みを浮かべる高梨がいた。



「あ、先輩」



「あんた大丈夫なの!?」



「はい、全然平気です!」



嘘だと思った。だって、あんなに蹴られてたのに。なのにこいつはヘラヘラ笑っていている。やっぱり変な奴だ……と思っていると、



「…でも、俺のせいでごめんなさい。先輩も怪我したんでしょう?」



「別にこれくらい大したことじゃないわ」



実際、かすり傷程度だし。心配するようなことでもないのだが……高梨は真剣な目つきでこう言った。



「駄目ですよ!女の子なんですから!」



私は思わず固まってしまう。この男はまた訳わからないことを言い出した……。



「あれ?先輩顔赤いですよ?熱でもあるんじゃないですか?」



そう言って高梨は私の顔に手を伸ばしてくる。私は反射的に避けてしまった。 



「あ……ご、ごめん」



私は咄嵯に出た言葉を口にする。すると高梨は少し悲しげな表情になった。



「……すみません。嫌……でしたよね」



「……嫌とかじゃなくて……あんたが変なことを言うからちょっと動揺しただけで……」



気まずい空気が流れるが、私は何も言えなかった。でも……一つだけ、言わなくちゃいけないことがある。だから私は今この空気を断ち切らなくてはいけない。



「……先あいつらが言ってたこと……弟子の件についてなんだけど…」



「え……?はい」



唐突な話題に高梨は動揺しつつも私の方へと向く。私は一呼吸置いてこう言った。



「最初会った時あんた言ったわよね?私のこと強いって。でも私は強くなんかないし、クールでもない。だから弟子になんか出来ないわ…私には何もないから」



私がそう言うと、高梨は俯きながらこう言った。



「……最初は先輩のこと、クールな人でカッコいい人だって憧れてました。それは今も変わらない。……でも、昨日…店を手伝わせてもらったときにわかったんですけど……花を見つめる目の先輩が真剣で、それでいて優しかった。それに、あの時俺を助けてくれた時の凛々しい姿が忘れられないんです。だから……そんな先輩に憧れてますし、尊敬しています。だから何もないなんて言わないでください!」



……なんなんだこいつ。しかも結構恥ずかしいセリフまで吐いてくれちゃったし…… 私は顔を赤くしながら目を逸らす。

こんなこと初めて言われた。だから私は……



「それでも私はあんなことを弟子には出来ない」



「はい……」



まるで、分かっていたかのように返事をする高梨。だけど……



「だけど……あんたのこと友達としてなら接してあげてもいいわ」



私は名前を呼ぶ。すると彼は驚いたようにこちらを見る。そして、嬉しそうに言った。



「……ありがとうございます!月坂先輩!」



「……美穂」


「え……?」



「美穂でいいわ!…瑛太!」



そう言って私は保健室を出た。扉の向こうから困惑気味の声が聞こえてきたが私は無視しながら



「(ああ、明日もあいつのせいで騒がしくなりそうね…)」



私はそう思いながら教室へと向かった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



美穂ちゃんの話です。彼女も、本編にもう少ししたらもっと出す予定です。

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