四話 『贅沢な二択』
クレープを食べ終えた。クレープは2人分を前提で作られているので量が多かったけども、残すのも勿体ないし、最後まで綺麗に頂いた。
クレープを食べ終えたのを確認した後先輩は口を開いた。
「なぁ、菜乃花。言ったよな?私が菜乃花の何処を好きに……って……そういやそこは言ってなかったよなぁ……って菜乃花のを聞いて思ったよ。本当、そんな状態で私か真白を選べなんて酷な話だよな……」
先輩は申し訳なさそうな顔をする。きっと私のことを考えてくれているのだろう。
「……じゃあ、聞かせてください。その……私の何処を好きに……」
言っていて恥ずかしくなる。だって自分のことなんだもん。これが他人の恋バナだったら私は興味津々に聞くと思うけど……自分が対象になるとは思わなかったから。
「んー、そうだな……最初は真白目当ての奴だと思ってた。ほら、菜乃花が入部した時期って実際真白目当ての女子多かっただろ?だから菜乃花もそこら辺にいる女子と同じタイプなのかなぁって思ってたんだ」
……確かに、私が入った時期って雪村先輩目当ての女子が多かったからなぁ……確かに私もそういうタイプだと思われてもしょうがないかも。
「でも、違ったじゃん?菜乃花は真白のどんな鋭い言葉にも立ち向かっていたし、他の女子は退部していったのにお前だけは残ってるし。根性が据わってるというか、芯が強いというか……そんなところに惹かれていった……だと思う。最初は。面白いやつだなって感じで。まあ、その後は面白くて観察してたらいつの間にか好きになってた。というわけで、私の好きなところは全部だ。菜乃花、好きだよ」
真っ直ぐな瞳に見つめられて、ドキドキしながら聞いていたのだが、途中から照れくさくなり思わず目を逸らしてしまった。
「……照れてる?ふふっ、恋人になったらもっと激しいこともそれ以上のこともするよ?」
「は、激しいこと……ですか」
「うん。それは真白も同じ。あいつ菜乃花のこと好きだし。でも、負けないから。でも……例え、菜乃花が真白に選んだとしてもしょうがないって思うくらい私は真白のことも認めてる。真白なら菜乃花のこと任せられる。でも……もし、私を選んでくれたときは覚悟しろよ?菜乃花が嫌って言うまで愛し続けるつもりだから」
そう言うと先輩は私を抱き締めて耳元で囁く。
「だから、お願いだ。もし、一つでも可能性があるのなら。菜乃花が私のことを少しでも好きでいてくれるのならば……私を選んで欲しい。私にとって菜乃花は女神だから」
「め、女神だなんて…そんな……」
女神は過大評価すぎるだろ……と思いつつも先輩の言葉が私の胸に深く突き刺さる。どっちを選んでも。どっちを選ばなくても。先輩は私のことを重視して身を引いてくれるらしい。
「………だからよく考えろ。真白の方がいいのならそれでいい。それできっぱりと諦められるから。だけど……そうでないのなら……」
それ以上の言葉は紡ぐことはなく、私たちはそのまましばらく無言で歩いていた。
△▼△▼
家に帰り、私はベットの上で考えていた。……どうしよう……という思いが混雑している。私はいつからこんなに優柔不断だったかなぁ……いや、でも、あの二人――高嶺の花と呼ばれ、憧れの的である雪村先輩と、クールビューティーと言われ、美人である深川先輩。
どっちとも人気があり、ファンクラブもある。……何より2人とも優しい。いつも気にかけてくれていたし……あれは優しさだと思ってた。でも……本当は好意を持って接してくれていたのだろうか……?
深川先輩は私のことを芯が強いと言ってくれた。そんなこと言われたこと無かったから凄く嬉しかったけど、私は芯が強いのだろうか?言い訳ばかりして成績が落ちたのも環境のせいにした私が芯の強い人間とは到底思えない。
深川先輩が私のことを好きな理由を聞いても納得は出来なかったが、少しだけ理解できた気がする。……そして雪村先輩。雪村先輩が私のことをどこを好きになったのか。それは明日にならないと分からない。
……いっそのことドッキリならいいのに。そっちの方がまだいい。二人がそんなことをするとは思えないけど、それなら納得できるし、笑えるかもしれない。……でも、二人は真剣だ。私なんかを本気で好きになってくれている。
「……どっちも、だなんて」
そんな図々しいことを口にしたら先輩達はどんな反応をするのだろうか。……きっと軽蔑すると思う。私に冷めるか、私を嫌いになるか、どちらかだ。
側からみたら贅沢で欲張りな願いだ。でも、私はどちらも失いたくない。……ううん、違う。片方を失うくらいなら両方失ってもいいと思っているのだ。
深川先輩も雪村先輩もどっちとも……欲しいだなんて、酷い願いだ。……でも、私は……それでも…と、考えていると、眠気に襲われ瞼がゆっくりと閉じていく。
寝よう。これ以上考えても答えが出るわけでもない。それに、もう疲れた。明日のことは明日考えればいい。
こうして、私の長いようで短い1日が終わった。
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