三話 『深川先輩のデート』

結局、授業には集中出来ないまま放課後になってしまったし、答えも出なかったし、散々だった。やっぱり断るしかないよね……と勿体なくね?と言う瀬戸際にいる。つまり、私は優柔不断なわけで。

ため息をつきながら、私は机に突っ伏した。



(…………私、どうしたいんだろう)



告白されるのが嫌なのか、それとも嬉しいのか……。自分の気持ちなのに全然分からない。ただ分かるのは、このモヤモヤする気持ちの正体だけだ。

すると、不意に誰かが隣に立った気配を感じた。顔を上げると、



「よっ。菜乃花」



「ふ、深川先輩!?」



周りからは女子から黄色い歓声が上がる。まぁ、女子に人気あるしなぁ、深川先輩って……そんな人が何故私なんかを好きになったんだろうか?不思議だ。

それにしても、まさか深川先輩の方から来るなんて思わなかった。



「部室、行くぞ」



「へ!?ちょ、ちょっと待って下さい!」



返事も聞かずに私の腕を掴み、強引に引っ張っていく。周りの人達からの視線が痛い!何て言うか、羨望とか嫉妬の目線が怖いんですけどぉ……これで告白された……なんて言ったら私殺されるのでは?そうこうしている内に、あっという間に部室に着いていた。



ここは落ち着く場所だと思ってたし、昨日までならここは安全地帯だったはずなのに……今は緊張してる自分がいた。

扉を開けると、そこにはいつも通り、窓辺に座って本を読んでいる雪村先輩がいた。



「あらー、奏に菜乃花ちゃん?ふふっ……二人一緒に来ちゃうんだぁ~?……ずるいわー、私だって菜乃花ちゃんとイチャイチャしたいのに…」



ニヤニヤしながら、わざとらしく頬に手を当てているが…怒っているようにしか見えない。

そしてさっきよりも空気が重くなった気がするのは気のせいではないと思う。

しかし、そんな事などお構いなしと言った様子で、先輩は口を開いた。



「イチャイチャ……ってまだ菜乃花の返事も聞いてもねーのに。なぁ、菜乃花?」



「えぇ!?そ、それは……」



急に話を振られて焦ってしまう。しかも返事がまだなのは事実だし……、



「そうそう、今日は謝りたかったのよね。ごめんなさい、菜乃花ちゃん。急な話だったからびっくりしたでしょ?告白したのも奏に嫉妬したからだし、こんな理由で告白するなんて酷いわよね……でもね?私……いや!私達は好きよ。菜乃花ちゃんのこと。だから付き合って欲しいの。お願いします!!」



「わ、私からも頼むよ!なあ菜乃花、お前の気持ち聞かせてくれないか?」



深々と頭を下げる先輩達に胸がズキンと痛む。こんなにお願いされたら無理だ。やんわりと断れない。私は、意を決して自分の気持ちを伝えることにした。



「わ、私……まだ先輩達のこと、全く知らないです。それに……まだ好きかどうかすら分かりません。だから、その……ごめ……なさ……」



涙が出そうになるのを必死に抑えながら何とか言葉にすることが出来た。だけどやっぱり辛いものは辛くて、目頭が熱くなって視界が歪んでいく。




するとその時、ギュッと何かに包まれたような感覚に襲われた。それが深川先輩と雪村先輩だと気づいた時にはもう遅かった。

私、抱きしめられている!?



「ふぇ!?せ、先輩達……何を……」



私が言い切る前に二人は同時に声を上げた。



「ごめんね!それもそうだよね!私達自分のことばっかで菜乃花ちゃんの気持ち全く考えてなかった!ごめんね!でも、その気持ちなら私達まだ諦めなくてもいいのよね!?」



「え……?そ、そうなんですかね……?よく分からないです」



「じゃあさ、私達がもっと知って貰えるように頑張ればいいってことだよな!?」



そ、そういうことになるのかな?なんだか話がおかしな方向に進んでるけど……



「そうよね、菜乃花ちゃん!私達のこともっと知って返事、聞かせてちょうだい!手始めにデートしない?」



「え!?デ、デー……トですか!?」



「デートしてみて、菜乃花ちゃんの心を掴んだ人が恋人になるってどう?」



「菜乃花さえよければ私はそれで構わないけど?どうする?」



ど、どうしよう……。デートって言われても……



「いや、あの……恋人って……そんな急に決められないですよ!私……本当に分からないんです!」



「まぁ、そこら辺はおいおい、ね?私達ただ菜乃花ちゃんと二人きりになりたいだけなんだけど」



「……へ!?」



それってつまり……二人の顔を見ると、頬が紅潮していて何だか色っぽい。…こんな表情をするぐらい私に本気なんだろうか?何で……?



「菜乃花。今日用事あるか?無いんだったら私と一緒に帰らないか?」



「ぶーっ!私だって菜乃花ちゃんと帰りたいのに……まぁじゃんけんで負けたんだから仕方がないけど……うぅ……」



じゃんけんしてたの…?いつの間にしていたの!?



「……用事はありませんが……その、私なんかと帰っても楽しく無いと思いますよ?」



「は?んなわけねーだろ。むしろ私が心配だ。菜乃花のことを楽しませれるのか不安だな。それにさ、私は菜乃花と一緒がいいんだよ。嫌なのか?」



深川先輩がストレートに言うものだから恥ずかしくなる。それにしても、何だろうこの気持ち。心臓がドキドキしている。



「菜乃花ちゃん?私もいるからね?明日は私と二人で帰るんだから忘れちゃダメよ?」



「え?!あ、はい……」



雪村先輩の勢いに押されて思わず了承してしまった。



△▼△▼




その後、私は先輩二人と帰ったのだが、その間ずっと手を繋いでいた。最初は緊張していたし、手汗とか大丈夫かな……とか考えていたとき、



「なぁ、菜乃花、クレープ食べないか?」



突然、先輩に提案された。そういえば……先輩、甘いものが好きだったなぁ。



「……買い食いは校則違反なんですよ?」



「真面目か?……そう言うところも好きだけど」



サラッとそんなことを言われるので、こっちまで照れてしまう。

すると先輩は私の顔に近づき、



「真面目な菜乃花が可愛いからキスしてもいいか?それがクレープの代わりというわけで」



「だ、駄目です!それならクレープを食べますから!」



「冗談だよ。そんな慌てんなって。菜乃花のこと好きだし大切だからそんな無理矢理なことはしないって」



……そう言って深川先輩は笑うけど……本当に私のどこを好きになったのだろう?不思議だ。

そして先輩に連れられるまま、クレープ屋さんに来た。

メニュー表には定番のチョコバナナやイチゴなどたくさんの種類があった。

どれにしようかな……と悩んでいると、



「なあ、菜乃花は何にする?」



「私はまだ……先輩は決まったんですか?」



「あぁ、私達は決めたぞ。ほら、これ」



メニュー表を指差す先輩。その先に目をやると……

そこには"カップル限定!!特製苺クリームスペシャルクレープ"の文字。



「か、かっぷる……!?」



「そうそう、私達はカップルだからこれを頼まないと。……ってことで店員さん、これお願いします」



注文を受けたお姉さんは笑顔で答えてくれた。

―――数分後、注文したクレープが届き、先輩と食べたが……



「大きくないですかね……?後シンプルに食べずらいし……」



「そうだな。味は美味いんだけどな」

確かにとても甘くておいしい。でも大きい分、食べるのにも一苦労だし、何より食べにくいのが難点だなぁ……。



「……なぁ菜乃花。口元についてる」



「え……?……あ、ありがとうございます」



慌ててティッシュで拭こうとすると、何故か先輩は自分の口に持っていった。

な、何を!?……と思ったら、 ペロッ……

何か生温かいものが唇に触れたような気がして、そっと触れてみると……

私の唇についたクリームが舐め取られていたのだ。



「はい、取ったよ?……ごちそーさま」



「~ッ!!」



恥ずかしくなって俯いていると、今度はクレープを私の口に押し付けてきた。



「むぐっ!?せ、せんぱ……?」



「私、もうお腹いっぱいだから菜乃花にあげるよ」



そう言いながら私に微笑みかける先輩。その顔はどこか寂しげだった。何で……そんな表情をするの? だから私は聞いてしまった。ずっと前から気になっていたことを。



「……先輩はどうして私のこと好きに……なったんですか?」



ずっと気になっていた。どうして桜田菜乃花を好きになったのか。こんな面白くもない私なんかの何処が良いのか。平凡で頭も普通で容姿も美人でもなくて、運動神経もなくて何一つ才能がなく、こんな私なんかのことが……

先輩は黙り込んだままだ。やっぱり聞かない方が良かったかな……と後悔していると先輩はこう言った。



「とりあえず、クレープを全部食え。話はそれからだ」



と、そう言った。

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