※ 第三夜 投稿中止のお詫び

 読者の皆様。

 誠に申し訳ありませんが、「第三夜 沖縄の離島、とある一族の怪」のこれ以上の投稿を勝手ながら中止させて頂く事にいたしました。


 投稿中止については全て私自身の判断でありまして、納得頂けるかは分かりませんが、その理由について説明する事をもって読者様方への私なりの誠意と思って頂けると幸いです。


 まず、「第三夜」を書こうと思った切っ掛けなのですが、今年の夏に作中に登場するマイクのモデルとなった人物の訃報を共通の知人経由で知ったからなのです。


 作中において私がマイクを(マイクという名も仮名ではありますが、ここでは作中のとおりマイクとさせて頂きます)「レッドネック」と呼んでいる箇所がありますが、実際は「タコス大好きヒスパニック野郎」でありまして、人種的にも純粋な白人ではなく異人種の血が入ってんじゃないか疑問に思うような肌色に顔付きの陽気な兄ちゃんで、歳は私よりも3つばかり上ではありましたが作中にもあるようにオタク趣味で気の合う友人でありました。


 社会人になってから仕事上の付き合いなんてものは幾らでもあっても、なかなかに友人というものを作る事が苦手な私にとって、かつて休日を使って嘉手納から私のいる那覇へと遊びに来てくれた人懐こい友人というのは本当にありがたく、訃報を聞いた時は胸が締め付けられるような思いを抱いたものです。


 私がはじめてテキーラを飲んだのも、中華料理屋でカエルを食べたのもマイクとエドと一緒の時の事で、今でも彼らと過ごした沖縄の暑い日々を昨日の事のように思い起こす事ができるほどです。


 そんな郷愁から「第三夜」を書こうと思ったのですが、第2回にあたる「承」と第3回にあたる「転」の間ですから8月20日から28日の間になると思うのですが、「Facebook」で今度はエドのモデルとなった人物の死を知ったのです。


 私が彼の死去を知ったのが8月というだけで、実際は今年の春に亡くなっていたようです。


 さすがにちょっとおかしくないですか?


「第三夜」のモチーフとなった一件と何か関係があるのではないかと考えてしまうのは穿ち過ぎた見方でしょうか?


 エドは私と同い年で、マイクにせよエドにせよ俗にいうアラフォー世代。

 日本とアメリカで人の命の在り方なんてのは違うのかもしれませんし、2人が2023年に死んだ事はただの偶然で済ませられる事なのかもしれません。


 それでも私にはあの島での一件が何か関わっているのではないか、あの島での怪異はまだ終わっていないのではないかと思わざるをえないのです。


 というのもエドはアメリカに帰国後に結婚していて、「Facebook」には奥さんが彼との写真を大量に載せていて、そこにはアメリカンサイズなデブの黒人夫妻が写し出されていて、なんとも幸せそうな生活を送っていた事が窺えるものでした。


 私は彼の奥さんにコンタクトを取り、機械翻訳経由での拙いやりとりではありますが数往復のメッセージのやりとりを行いました。


 エドの早すぎる死を悔やむメッセージに対し、奥さんは丁寧に感謝の意を表しつつも私が日本人である事を知ると執拗に「着物の女」について問いただしてきたのです。


 文章ですら窺えるほどに興奮する奥さんを宥めてていたためにメッセージのやりとりはイタズラに回数を費やし、やっとの事でどういう事なのかと彼女に問いただすと、どうやらエドは死の間際、数週間に渡って「日本の着物姿の女性が見える」などと奥さんや他の家族に訴えていたそうなのです。


 当然、そんなものなど見えやしない奥さんたちがその「着物姿の女」について「Ghostゴーストなのか?」と問うと、エドは怯えながら「Greetグレート spiritスピリットだ」と答えたと。


 私はその文言を見て、ただただ凍り付いたように固まってしまいました。


「グレート・スピリット」とはあの島で、島民が怪異について「神様」だというのを私がキリスト教圏の2人に対して「God」と説明するのを躊躇われたためにテキトーにお茶を濁した時に使った語であったからです。


 ほんと、あの時の自分を殴りつけてやりたいくらいですね。

 今ならば「グレート・スピリット」だなんて言わずに「クレイジー バット ストロング ゴースト」とでも言っていたでしょう。


 さて、私はエドの奥さんに対して話を濁すのにとても苦労してメッセージのやりとりと終えました。


 何故、エドの死に関わっているかもしれないあの島での一件についてエドの奥さんに伝えなかったのか?


 それは「第三夜」のこれ以上の投稿を中止した理由とも関わりがあります。


 私には何も分からなかったのです。


 あの島の住民が私たちに一切合切の事情を明かしていたとは思ってはいませんでしたし、それこそが破格の報酬の理由の1つであるとも理解していました。


 ですが、それはその一件があの夜に全てが終わったと、次回の儀式があるのかもしれませんが、それは私たちには関係の無い事ですし、私たちは依頼通りに仕事をして、島民は私たちに報酬を支払った。それで終わりのドライな関係であると思っていたからです。


 こんな10年も経ってから命に関わるレベルの障りがあるだなんて私たちは聞いてはおりませんし、そもそもあれから10年以上も経った今になって同じ年にマイクとエドの2人が亡くなったのか理由も分かりません。


 さらに、これはホントに私が心配性だからかもしれませんが、この手の怪談でよくあるじゃないですか?


「この話を聞いた者のところにも」ってヤツ。


 件の怪異がこの手の性質が無いかどうかも私には分からないのです。


 故に私はこれ以上の禍がエドの奥さんに及ぶ事がないようにあの島での事を話す事ができず、「第三夜」の投稿を中止せざるをえなかったのです。


 それでも私の胸を占める郷愁はかつて日本人の口が悪くてヒネた若造であった私と仲良くしてくれた気の良い友人たちがいた事を誰かに知っておいて欲しくて、現在投稿中のエピソード内で怪異の登場がまだであった事をこれ幸いと「第三夜」のエピソード自体の削除は行わない方向にしようとなったわけでした。


 それに私としてはあの島の怪異に「自身の話を聞いた者の所にも現れる」という性質があった場合、他の者にこの話の詳細を伝えるわけにはいかないのです。


 私が誰にもこの話をしなかった場合、あの怪異は私の元に現れるしかないわけで、友人の借りを返させてもらうには向こうからこっちに来てもらうのが手っ取り早い以上はそうせざるをえないでしょう。


 あの怪異は触れる事ができるのです。


 ならば殴る事もできるはずですし、昔から体が硬かった私が全身の筋力を使って締め上げるコブラ・ツイストは滅茶苦茶に効くと言われているのですよ。

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