第2夜 2023年7月29日、東京にて
お久しぶりです。
「小説家になろう」や「カクヨム」に自作の小説を投稿している
今回、皆様にお話しする話はつい先日の話で、日付もはっきりしております。
今年の7月29日、土曜日の事。
ええ、その日付に心当たりがある人もいるかもしれませんね。
前日の28日も仕事の都合で休日となり、土日と合わせて3連休となった私は連休をどう使おうかとネットサーフィンをしていると「隅田川花火大会、4年振りの開催」といった記事を見付けました。
そういえば、1度も隅田川の花火大会を見た事がないな、と思った私はこれ幸いと即決。
すぐに東京までの交通手段を調べ、往復16,000円ほどの深夜高速バスが最安だろうとすぐにチケットを手配。
私はバスとか列車ではあまり熟睡できる
私が暮らす秋田の田舎では東京まで行くのも高速バスでは一晩がかり、用も無ければ滅多に行く事はありません。
そういうわけで10年ぶりくらいになる今回の東京行きのプチ旅行。
私はバスに揺られながら夜の花火大会まで何をしようかと色々と計画を立てていました。
何か美味しい物でも食べたいな。
どこか観光名所にも寄ってみたいな。
そういえば浅草寺とか中学校の修学旅行以来、行った事がないな。
深夜行に備えて日中に寝ていたハズではありましたが、暑い夏の事で眠りが浅かったのか、すぐに私はうつらうつらとしてきて半ば寝ているのか、それとも目を閉じて旅行の計画を立てているのか分からないような状態となりました。
そして29日の早朝。
私を乗せたバスは終点、池袋駅近くのバス乗り場へと止まったのです。
もうバスから降りた途端に私の中の計画はほぼ吹っ飛んでいました。
ええ。そうです。
東北のドが付く田舎に住んでいる私が東京に行ったならば当然なのでしょうが、朝からクッッッソ暑いのです。
バスが池袋に到着したのは午前7時前。
まだアスファルトは温まっていないがために輻射熱は無いし、日陰に入れば涼しさを感じる事ができるぐらいではあったのですが、すでに陽射しは強く、昨晩の熱が抜けきっていないのでしょうか? 気温も時間を考えれば秋田ではありえないほどの暑さでした。
半睡眠半覚醒状態の一晩を過ごしてきた私としてはもうすでに軽く疲労を感じている状態。
とりあえずは予定通りに池袋から上野まで山の手線で向かったものの、その時にはすでに午前中は上野動物園にでもいこうかという計画は諦めかけていました。
案の定、そんな短時間では暑さになれる事もできず、これから暑さも激しさをましていくであろう事は間違いなく、とりあえず上野駅の駅蕎麦で朝食を済ませた頃には完全に計画を放棄。
とはいえ、そんな早朝の事ですから空いているお店なんてそうはありません。
チェーンの飲食店やコンビニなんかで時間を潰せるはずもなく、私は暇を潰すための方策を求めて炎天下の中を彷徨い歩く事となったのです。
どこかのネットカフェにでも入って涼みながらインターネットで計画の練り直しをするのがもっとも効率的であったのかもしれません。
あるいは予定通りに午前9時半まで待って、予定通りに上野動物園にでも行っていたならば、たとえ炎天下の下であろうと種々の動物に心を楽しませ、意外と暑さも気にならなかったのかもしれませんね。
少なくともあてもなくコンクリートジャングルを彷徨い歩くような事態よりかはマシであったと思います。
連休中にせっかく東京まで来たのだからもっと有意義に時間を使いたいと焦っていたのでしょう。
結局、東京メトロの駅で上野から浅草へと来た私でしたが、すでにその時点で汗だく疲労困憊状態。
そこで半ばやけくそになった私は昼前にタクシーを拾って吉原のソープ街へと行く事にしたのです。
浅草から上野までは数分の距離。
それならば特に予約を入れる必要も感じずにふらっと目に付いた店舗へと入ったのですが、気にいった女の子は次は午後2時からだというので予約を入れて料金は先払いで支払い、また私はそれまでの暇に押しつぶされそうになっていました。
そこで私は再び浅草まで戻る事にしました。
ええ、ホントもうこの頃には完全に昨晩に考えていた計画は頭の中から掻き消えていたのです。
だからこんな無駄足を踏む事になったわけですね。
というのも私が考えていたのはソープの待ち時間の間に浅草寺やその周りの仲見世でも見て回ろうかという事ではなく、ただ単に食事のためだったのです。
だったら先に浅草でメシ食ってから吉原に行けよって話ですよね。
あるいは吉原周辺でメシを済ませろって所でしょうか?
ですが、その時の私にはどうしても浅草で食事がしたかったのです。
というのも朝に上野で食べた駅蕎麦があまり満足のいくものではなかったからで、そこで私が食べたのは冷やし蕎麦とカレーのセットメニュー。
蕎麦はしっかりと冷やされていてコシのある物ではありましたが具材はネギ以外に無く、セットによくある一膳カレー特有のあまり旨味の強いものではなく、おまけに茶碗の飯の量に比べてカレーソースが少ないといった問題のあるカレーライスと合わせて腹は膨れても満足感は低いというものだったのです。
今日の22時40分のバスで秋田に帰らなければいけない都合上、東京での食事はハズしてしまった朝食の他には昼食と夕食の2食だけ。
花火大会の混雑は田舎者の私にもある程度は想像できるわけで、夕食をきちんと摂る事ができるかどうかは定かではありません。
そんなわけでこの昼食はハズす事はできないぞ、と私が白羽の矢を立てていたのは浅草駅近くの老舗のウナギ屋さんだったのです。
その店のウナギは炭火の香りは強くなく、それがかえってウナギの身の味をしっかりと感じられるもので、タレも江戸前風とでもいうのでしょうか? 甘味はしっかりと感じられるのにクドくはないといったもの。
ウナギの付け合わせとしては奈良漬けが有名ですが、実は私は奈良漬けがあまり好きではなく、その点でも目当ての店ではキュウリの浅漬けや沢庵などの漬物で、そのザクザクボリボリという食感がウナギの柔らかい身質を上手くアシストしてくれて私好み。
たしか私の記憶が定かならば数百円をプラスして小鉢を追加した定食にする事もできたハズですが、うな重に漬物と肝吸いがあればそれで満足でしょう。
それにビールの1本でも付ければ暑さも和らいで完璧。
そういうわけで私はどうしても浅草でウナギが食べたかったのです。
「浅草寺の方までお願いします」
「浅草寺? それじゃ浅草駅とかの辺りとかで?」
「ああ、良いですね。浅草駅で……」
吉原で拾ったタクシーに乗り込む時、私は周囲の交通の邪魔にならないようにサッと方向を伝えて、タクシーが発車してから詳しい行先を伝えるつもりであったのですが、どうも運転手さんはハッキリと目的地を聞いてから車を出すタイプであったようで幾つか言葉のやりとりをしてから扉が閉められたのを覚えています。
とはいえ偶然でしょうが、運転手さんが口に出した浅草駅というのは目当てのウナギ屋さんのすぐ近くという事もあり、行先は即決。
すでに目的地は伝えているためか、発射してからは何も話す事もなく、冷房の心地良さと疲労とでしばし私は目を閉じて体を休ませる事にしました。
先ほど浅草から来る時も数分の短時間であったように、道路状況さえ混雑していなければ今度も同じような時間で到着したでしょう。
もしかしたら少し眠気を感じていたがために時間の感覚は確かではないかもしれません。
ですが私の肌感覚では来る時とさほど時間は変わらず、またタクシーの料金も大して変わらない1,000円もしないような金額ではありました。
「……お客さん、着きましたよ」
「う? え、ああ。ありがとうございます」
酷暑と昨晩の寝不足によってたった数分で眠りかかっていた私は運転手さんにかけられた声に驚き、慌てて料金メーターに表示されている金額を確認すると千円札をキャッシュトレーに乗せ、未だ膜がかかったようにボヤけた目でお釣りを受け取ってタクシーを降りたのです。
「どこだここ……? 空が広い……?」
そこは浅草駅の前ではなく、それどころか浅草のどこかですらありませんでした。
その日は花火大会という事もあってか日中も観光客が多く、特に浅草寺周辺は外国人観光客が特に多く目立つほどであったのですが、つい先ほど吉原に向かう前に見たようなごった返すような人混みはそこにはなく、それどころか目的地であったハズの浅草駅やその近くのデパートのようなランドマークのようなものも見当たりません。
それに私がここは浅草ではないと感じたのはその広さからでした。
浅草といえば日本人なら誰しもが知る観光地。
浅草寺の境内に入れば別でしょうが、周囲のビルによって浅草の空は狭苦しく切り取られたような印象です。
ですが、その時に私がいた場所は随分と開けた空が頭上に広がっていたのです。
何かここがどこか分かるような目印的なものを探すために周囲を見るに、この辺りもビルが立ち並んでいるのですが、それでも私が空が広いと感じたのは私がタクシーを降りてすぐに見た寺社仏閣の類のような施設の敷地が広く、そこは高さの無い建物ばかりだったからなのでしょう。
(もしかして浅草寺の裏側とか? ええと、だったら仲見世はどっちだろう? 浅草駅は……?)
私のすぐ右手側にあった平屋の建物やその奥の2階立ての建物は朱色を基調とした和風の宗教施設によく見るもので、もしかしてここは私の知らない浅草寺の近くのどこかなのだろうかと私はその寺社仏閣の敷地内に入ってみる事にしました。
ですが、その次の瞬間に私は戦慄する事になります。
「××神社 屋上庭園入口」
私の左手側にあった駐車場の屋上へと昇るスロープ。
その入り口近くに立てられていた看板は私を驚愕せしめるに十分なものでした。
××神社、もしくは××明神として知られるその神社は七福神のメンバーとして有名な大黒天や恵比寿を祭神としているのですが、もう1柱、日本3大怨霊の1柱として知られる歴史上の人物を祀っている事でも知られています。
なんでこんな所に? と私は慌ててスマホを取り出して現在地と本来の目的地であった浅草駅の場所を比べてみる事にしました。
××神社の最寄り駅といえば東京メトロの御茶ノ水駅と末広町駅のちょうど中間くらいで、近いと言えば近いのでしょうが、それでもタクシーで浅草駅までと言って来るような場所ではありません。
(なんでまた××明神に……?)
愕然と立ち尽くした私は何度も自問自答を繰り返していましたが、当然ながら自分の足で来たわけではなくタクシーで送り届けられてしまった以上、その答えが出るわけもありません。
ですが、私の中ではどこか納得している所がありました。
というのも私が以前に執筆していたネット小説の中で、この××神社に祀られている日本3大怨霊の内の1柱をネタにした事があり、現在連載中の小説のライバルキャラのモデルの内の1つでもあったからです。
もちろん日本3大怨霊に数えられるほどの神様です。
実在の人物であるにも関わらずに神様に祀り上げられるほどに祟っちゃうヤバい怨霊です。
私だって以前に書いていた小説では直接的に小説内に登場させたわけではなく、あくまでフレーバーテキスト的といいますか、世界観を広げるためにちょろっと言葉の端に出した程度。
現在、連載中の小説のライバルキャラにしても色んなモチーフをごった煮にしてそれを濾過して作り上げたようなキャラクターであると自負しています。
そうはいってもそのくらいで祟ったとしても「そら、そうだろうなぁ」と納得せざるをえないような人物が祀られている神社に「呼ばれた」としか思えないようなきっかけで訪れる事になった。
「……挨拶くらいしに来いや、って事かね?」
私は苦笑しつつも、どこか内心ではホッとしながら予定を変更して参拝させて頂く事にしました。
何故か分かりませんが、いや、ホントもう根拠なんかある話ではないのですが、首塚ではなく××神社に呼ばれたという事はまだ温情措置のような気がして、不思議な体験ではありましたがさほど恐怖は感じてはいません。
それどころか私の胸中はどこか晴れ晴れとしたものがあったのです。
「〇〇公、勝手にネタにしてサーセンっした! ついでに
予定外ではありましたが、ゴメンナサイリストが1行減ったのが晴れ晴れした理由であったのしょう。
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