デザート
翌日、治療を終えた
「マグスは……俺がぶっ殺してやる」
彼はそう呟き、メタルミストを遠隔操作する。宙には五本の剣が舞い、マグスたちを次々と切り倒していく。
「はぁ……はぁ……マグスは……どこだ……」
彼はそんな声を漏らしつつ、集落の範囲内を放浪する。その眼に宿るものは、明確な殺意だ。
無論、集落に住むマグスたちは、御鷹の様子がおかしくなったことを知らない。彼らは御鷹を見かけるたびに、友好的な態度で彼に近寄っていく。
「殺す……絶対、殺す……」
御鷹は舌なめずりをし、何本もの剣で周囲のマグスを切り殺していく。逃げ切った数体のマグスは、同胞たちに異常を知らせていく。
こんな事態を放っておくわけにはいかない。彼の前に、愛恋と
「瑞葉! ついてくるなって言ったじゃないか!」
「集落の危機は、私の危機です。私は戦います。例え貴方に止められても……」
「……仕方ないな」
無論、彼らは御鷹に何があったのかを知らない。今の彼を野放しにしたら、取り返しのつかないことになる――――それだけは確かだ。
「愛恋! 瑞葉! ちょうど良いところに来てくれたな! 二人まとめて、こんな集落よりももっと良い場所に送り込んでやるよ!」
御鷹の操る剣は、愛恋たちを着実に追い詰めていく。彼らは一歩たりとも、彼に接近することの出来ない状態だ。防戦一方――――否、もはや己の身を守ることさえ難しい状況だろう。
「御鷹! どうして、僕たちを裏切ったんだ!」
そう叫んだ愛恋の声には、悲哀が交じっていた。
「やはり人間は……人間ですか」
瑞葉は呆れたような声色でそう言った。
一方、御鷹は己の心の中で、己自身と戦っていた。彼は鎖に縛られており、その目の前にはもう一人の彼の姿がある。
「何故だ……何故、罪のないマグスを殺す必要がある! こんなことはもうやめろ!」
「マグスを殺せ。マグスを殺せ。マグスを殺せ。マグスを殺せ。マグスを殺せ」
「よせ! お前は一体なんなんだ⁉ お前は、本当に俺なのか⁉」
「マグスを殺せ。マグスを殺せ。マグスを殺せ。マグスを殺せ」
「俺の質問に答えろ! 鎖を外せ! 俺の体を、どうするつもりだ!」
御鷹が何度叫んでも、返ってくる言葉は変わらない。御鷹の姿をしたそれは、ただひたすらに同じ言葉を繰り返していくだけだ。御鷹は唇を噛みしめ、怒りと悔しさに震えるばかりである。このままでは、彼は一番大切な友人を殺しかねないだろう。御鷹は全身に力を籠め、必死に足掻く。それでも、彼を縛り付ける鎖が千切れることはない。
「どうして……こんなことに……」
この状況は彼にとって、あまりにも理不尽なものだ。彼自身の本心に反し、殺人衝動は絶対的な支配力をもってして彼の肉体を操っている。
*
同じ頃、
「こちらが本日のアントレでございます」
ウェイトレスはテーブルに、鴨肉のステーキを置く。奏美たちは軽く会釈し、ステーキを切り始める。
玲作は言う。
「いよいよ、メインディッシュだな」
奏美は答える。
「そうだね。だけど、メインディッシュの後のデザートも忘れてはいけないよ」
二人は肉を切り分け終わり、鴨肉のステーキを食べていく。その姿からは気品が漂っていた。
先にメインディッシュを完食した奏美は呟く。
「そろそろ、デザートが来るね」
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