居場所
紅蓮は笑う。
「瑞葉……オメェの帰る場所は、ここじゃなくなっちまったな。さあ、帰るぞ。オメェらに勝ち目はねぇんだからよ」
緊迫した空気が立ち込める。愛恋と瑞葉が束になっても、彼女の実力には遠く及ばないようだ。それでも愛恋は、瑞葉を諦めようとはしない。
「
「ああ。瑞葉は身勝手な人間のために生まれ、身勝手な人間のために生きてきた。オレは人間どもを……絶対に許さねぇ」
「僕はこれから、ここに住むマグスたちと協力して、この地を再び自然豊かな楽園にする。瑞葉は……愛も家庭も、温もりも知らずに生きてきたから……この場所を必要としているんだ」
彼は紅蓮以上に、瑞葉のことをよくわかっていた。紅蓮は面食らった様子で息を呑み、それから少し考える。彼女の表情には、紛れもなく優しさが籠っていた。
紅蓮は答えを出す。
「オメェみてぇな足手まといは要らねぇ。こんな男に手懐けられて心変わりするような優柔不断な奴を、組織に置いておくわけにはいかねぇな」
彼女はそう言い放ち、その場を後にした。何はともあれ、瑞葉はこの場所で生きていくことを許された。愛恋はゆっくりと立ち上がり、足下に倒れている瑞葉に手を伸べる。
「ありがとうございます……
「良いんだよ。この集落には、緑属性のマグスもいる。草木や花々を増やすのは彼らに任せるとして、君には水源を作ってもらうよ」
「了解しました」
瑞葉は彼の手を取り、おぼつかない足取りで立ち上がった。二人は一度仮設住宅の密集地に戻り、マグスたちに呼びかける。
「リベリオン・マギによる襲撃があった。皆で手を取り合って、すぐにでも自然を復活させよう」
愛恋の呼びかけにより、周囲にはたくさんのマグスが集まってくる。
「任せてちょ!」
「オイラの魔法が猛威を振るうぞぅ!」
「愛恋には指揮を任せるね!」
集落の中心人物である愛恋には、それなりの人望があるようだ。マグスたちの姿を前にして、瑞葉は安堵の籠った微笑みを浮かべる。
「元に戻ると良いですね……私たちの居場所が」
「戻るさ。僕は、ここの皆のことを信じているからね」
「さっそく、私は水源を作ってきます」
「ああ、任せたよ」
それから愛恋の指揮下にて、マグスたちは真剣に作業に取り組んだ。彼ら全員の活躍により、集落の自然は一晩で復興したという。
*
翌日、リベリオン・マギの会議室にて、紅蓮は
「ふむ……瑞葉を逃すとはどういう了見かね?」
「オレの首を切りたきゃ好きにしな。もっとも、オレがいねぇとこの組織は間違いなく崩壊するだろうけどよ」
「ふむ……確かに君を解雇するわけにはいかないな。しかし今回の君の行動は目に余るぞ? 私情で組織の戦力を削ったことで、君は我々に何をもたらしたと言うのだね?」
彼女の行動は人道的なものであったが、組織にとっては看過し難いものだ。二人は無言のまま、ただひたすら睨み合っている。
両者の間の沈黙を破るのは、神出鬼没にして組織屈指の技術者と謳われる男――――
「ヒヒヒ……瑞葉はすでに、我々に敵意を持っている可能性がある。中途半端に飼い慣らそうとしたら、スパイになりかねないんじゃないかねぇ? 我々の作戦が事前に外に漏れたら、敵対勢力に対策を打たれてしまう恐れがある」
彼が誰の味方なのかはわからない。ただ一つ言えることは、彼の言い分が間違っていないことだけだろう。
「ふむ……それもそうだな。奴のことは諦めるとしよう」
秀一は瑞葉を手放すことを選んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます