強敵

 御鷹みたかの振った剣は、ゆうの胸に深い切り傷を負わせた。祐はすぐに吐血し、その場で膝を突く。もはや彼は劣勢だが、その瞳に恐怖は宿っていない。彼は闘志に満ちた眼差しで、眼前のマグスバスターを睨みつけている。

「ミーを……殺さないのかい?」

 祐は訊ねた。無論、ここで彼を殺しておかなければ、後ほど厄介なことになる可能性もあるだろう。それでも御鷹は、祐を生かす選択を取る。

「ああ、今回は見逃してやる。だが、これ以上俺の邪魔をするのなら、容赦はしない」

「ふぅん。まあ、後のことは紅蓮に任せるとするよん。くだらない意地で撤退を拒んで死んじゃったら、それこそ組織に迷惑じゃん?」

「賢明な判断だな」

 御鷹は祐を置き去りにし、そのまま廊下を突き進んでいった。



 それから御鷹は、会議室の前に辿り着いた。彼の目の前では今、二体のマグスが戦っている。一方は愛恋あれん、もう一方は紅蓮ぐれんだ。愛恋は全身に深い傷を負い、肩で呼吸をしながら眼前の強敵を睨みつけている。

「君は……このビルを破壊したくないはずだから……本気を出せないはずだ」

「もちろんだぜ。だからこうして、手を抜いてやってるんじゃねぇか」

「ふふ……それなら僕にも、勝算はあるかも知れないね」

 彼はそう言ったが、その体はもはや満身創痍だ。一方で、紅蓮の方は全くの無傷である。

「勝利の女神がそう言ったのか? だったら、オレが女神の首をへし折ってやるよ!」

 そう言い放った彼女の指先から、レーザーのような炎が発射される。炎の光線は彼女の指の動きに合わせて角度を変え、愛恋の方へと迫っていく。


 御鷹はすかさず飛び出す。

「愛恋! 危ない!」

 彼は愛恋を突き飛ばし、紅蓮の攻撃を浴びる。炎の光線に焼き切られ、御鷹の脇腹には深い切り傷が出来る。本気を出せない状況下でもなお、紅蓮という女は凄まじい強さを誇っているようだ。

「次会う時は敵だって言ったよなぁ? 御鷹! オメェをここでぶっ殺してやるから覚悟しろ!」

 彼女はそう宣言し、全身に炎をまとう。そんな彼女を睨みつけることなく、御鷹は愛恋の方に目を遣る。

「愛恋、ここは俺が引き受けた! 早く瑞葉みずはを!」

「でも、このままじゃ君が……」

「良いから早く行け! アンタがここで死んだら、集落の皆はどうなる⁉」

「わかったよ。その代わり、絶対に生きて帰るんだよ」

「ああ、任せろ!」

 話はまとまった。愛恋はワイバーンに変身し、会議室の扉に突進する。扉は周りの壁ごと勢いよく破壊され、彼は会議室への突入に成功する。



 後は、御鷹が紅蓮を足止めするだけだ。

「俺たちは敵同士か。だったら、遠慮は要らないな!」

 彼はメタルミストを銃に変形させ、エネルギー弾を乱射する。紅蓮は炎の弾で応戦し、エネルギー弾を空中で爆破していく。辺りは灰色の煙に覆われ、両者の視界が遮られていく。しかし紅蓮には、標的の姿を捉える必要はない。

「祐との戦いで失血しているアンタと、無傷のオレ……先に窒息するのはどっちだろうなぁ?」

 彼女は更に炎を放ち、周囲の酸素濃度を低下させていく。御鷹は生唾を呑み、それから手探りで壁を探す。そして壁を見つけるや否や、彼はメタルミストの銃口から太い光線を発射する。これにより、壁には大きな穴が空き、彼は逃走経路にありついた。

「逃がすかよ!」

 直後、彼の眼前には、煙をまとった紅蓮が飛び込んできた。リベリオン・マギ屈指の実力者と噂される彼女が、周囲の物音を聞き逃すようなことはないらしい。

「クソッ……このままじゃ……!」

「オメェを殺すのは見送るつもりだったが、そうも言ってらんねぇな!」

 紅蓮は標的の胸倉を掴み、己の手から炎の渦を放った。御鷹は身動きが取れないまま、全身をゼロ距離で燃やされていく。薄れゆく意識の中で、彼はただ、愛恋の身を案じていた。

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