自分との戦い

信頼

 御鷹みたかはいつもの集落に戻った。彼は愛恋あれんに、リベリオン・マギの拠点で聞いてきた話の全てを語った。愛恋は相槌を打ちつつ、真剣に耳を傾けた。そして御鷹が全てを語ったのを確認し、愛恋はようやく口を開く。

「そっか……やっぱり、彼らにもそれなりに事情があるんだね」

「……なあ、愛恋。俺は本当に、人間の善性を信じて良いのかな……?」

「難しいところだね。人間とかマグスとか、そういう大きな括りで見るのなら、僕だって何も信じることは出来ないよ。それでも、僕は君のことや、この集落に住む仲間たちのことは心から信用しているけどね」

……愛恋らしい受け答えだ。御鷹は疲労の交じったような愛想笑いを浮かべ、感謝の言葉を述べる。

「ありがとな、愛恋。俺も、アンタ一人のことなら信用できるよ」

 彼の発言に対し、愛恋は無邪気な微笑みを返す。その表情から見て取れる感情は、彼に対する好意だ。

「ふふ……やはり君といると、安心できるよ」

「同感だ。俺は人間を守ることには迷いがあるけど……アンタのことなら何の迷いもなく守りたいと思う。今も、これからもな」

「そっか。じゃあ、この集落のことも守ってくれるかい? 僕にとって、僕たちにとって、この場所は本当に大切な場所だから」

「もちろんだ。俺に任せろ! これから、この場所で、俺の守りたいものがどんどん増えていくだろうしな!」

 御鷹は張り切っている。しかし二人がいくら意気込んでいても、彼らの直面している問題が重大であることに違いはない。

「……それにしても、大変なことだよね。マグスと人間の間にある溝が、こうも深いものだなんてね」

「ああ、そうだな。正直、これは俺の手にも余る問題だ。だけど、一度きりの人生だ。やらずに後悔して死ぬよりも、ほんの少しだけでも世界を変えてから死にたいもんだ」

「そうだね。僕もそう思うよ」

 二人は志を共にし、更に親睦を深めた。



 *



 同じ頃、奏美かなみたちは新たな拠点を確保していた。その一室で、竜也りゅうやは酷く咳き込みつつ、数錠のカプセル剤を手に取っている。彼はそれを一気に飲み込み、噎せ返りながら呼吸を荒げている。そんな彼の元に姿を現したのは、彼の知る限り最も優秀な医師――――真上玲作まがみれいさくだ。

「ずいぶん苦しそうだな。こういう時くらい、医者の私を頼っても良いのだぞ」

「ありがとう、真上先生。だけど、僕の心臓の病はもう治らないんだ。元々は感染症の症状で、もうウィルスは除去出来たが……心臓に残った損傷を癒すことは出来ないらしいんだ」

「ほう……医者の私を試そうというわけだな。良いだろう……いつか必ず、お前の心臓を回復させる方法を見つけ出そう。何しろ私は、晴れてお前たちの専属のドクターになったわけだからな」

 ただ武器を振るうだけでは、マグスとは戦えない。ゆえに奏美は、いつの間に玲作を自陣に取り込んでいたようだ。


 続いて部屋に飛び込んできたのは、奏美だ。

「二人とも、ハグの時間だよ」

 彼女は相変わらず、抱擁を好んでいるようだ。

「パス」

「私も遠慮しておくとしよう」

 二人は彼女の誘いを断った。奏美は不服そうだ。

「残念だね。特に、医療の道を志すドクター・マガミであれば、ハグがいかに精神のマネジメントに有用であるかを知っていると思ったのに……」

「もちろん知っているが、私も一人の人間だ。合理だけが全てではない」

「全く……アナタたちは理解に苦しむね」

 合理を重んずる彼女にとって、人間的な感情によるこだわりは理解の及ばないものだ。ゆえに彼女の行動の全てには、何らかの意味がある。

「ところで奏美。お前がここに来たということは、何か話したいことがあるのだろう?」

 玲作は訊ねた。奏美はもったいぶることなく、すぐに本題に移る。

「御鷹は今、一体のマグスと良好な関係にある」

 そう言い放った彼女は、妙に深刻な顔つきをしていた。

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