戦う理由

 そして現在、御鷹みたかは己の境遇をリベリオン・マギの幹部たちに打ち明けている。

「結局、生き残ったのは俺を含めた数人だけだった。院長も死んじまったよ。そして、後になってわかったことなんだが、あの孤児院は元々、リベリオン・マギが反人間教育を吹き込むための洗脳施設だったらしいんだ」

 そう――――彼の過去には、リベリオン・マギが関与していたのだ。当然、秀一しゅういちはこのことについてよく知っている。

「ふむ……その件については知っている。院長は我々を裏切り、孤児に普通の人間の受けるような教育を施していったのだろう。さぞ、孤児に情が移ったのだろうな。だから見せしめで殺すことにしたのだ」

 院長の死は、彼の決定によるものだったようだ。御鷹は怒りを抑え、話を続ける。

「だが、アンタらがそうした背景には憎しみがあった。俺は院長を尊敬していたし、死んでいった仲間たちのことも大切に思っているけど、それでもアンタらを憎みはしないよ」

「ふむ……君が戦う理由は、孤児院の件を怨んでいるからではないのかね?」

「俺が怨んでいるのは、俺自身の弱さだけだ。俺はもう二度と、大切な人を失いたくはないし、強い人間で在りたいと思ってる。だから俺は戦うんだ!」

 それが彼の想いだ。紅蓮ぐれんは彼の肩に手を乗せ、歯を見せながら笑う。

「ククク……戦う理由としては上等だ。オレとオメェは敵同士だが、それだけでオメェの信念を紛い物だと決めつけはしねぇよ。これからオレたちに見せていってくれよ……オメェの覚悟ってモンをな」

 何やら、彼女は御鷹に興味を持った様子だ。それでもなお「敵同士」と断言した彼女に対し、御鷹は少し不満を抱いている。

「敵同士? 俺はアンタらの手段を許せないだけで、共通の目的があるのなら喜んでこの身を捧げるつもりでいるぞ」

「オメェの身を捧げる? 面白ぇ……一体、何をしてくれるんだ?」

「……俺は人間の所業を許さない。だから、アンタらは俺を人質に取り、マグスに人権を認めさせるよう国を脅してくれ」

――――それは決して、身の安全の保証された考えではない。紅蓮は少し呆れたような表情を見せ、彼に忠告する。

「あのなぁ。オレたちの人質になるってことが、どういうことかわかってんのか? オレたちが人質を扱う時は、人質の体の一部を少しずつ奪っていくんだよ。先ずは指、次は腕、次は脚……その後は脳の一部だ」

「覚悟の上だ。もし人間が、それまでに取引に応じなかった場合、そんな冷酷な連中には守る価値なんかない。それでも俺は、人間の善性を信じる」

 御鷹の目に迷いはない。彼の語っていたことは、彼自身の本心だ。紅蓮は己の後頭部を掻きむしり、深いため息をつく。

「例えリベリオン・マギがそのやり方に賛成しても、オレは反対するぜ。オメェみてぇな救いようのねぇ馬鹿をそんな風に扱うのは、オレの美学に反するからな」

「だけど、俺に出来ることはそれしか……」

「オメェはもう帰りな。オメェの信念が本物だとわかった以上、それを悪用する気も失せちまったよ。アンタら人間からすりゃオレたちは悪の組織かも知れねぇけどな……それでも美学まで捨てた気は更々ねぇんだよ」

 彼女の曇り無き眼も、彼女自身が本心を語ったことを表していた。そんな彼女の中に眠る確かな「正義」に触れ、御鷹は一筋の希望の光を見いだした。

「なあ、紅蓮。俺たち、わかり合えないか?」

「そいつは無理な相談だな。とっとと消え失せろ。次に会う時は、オレたちは敵同士だ。良いな?」

「……そうかい」

 両者の心の距離は、あまり縮まっていないようだ。御鷹は腑に落ちないものを感じつつ、無言でその場を去る。彼が去った後の会議室で、紅蓮は密かに呟く。

「ふっ……面白ぇ男だ」

 彼女は彼に心を許したわけではないが、依然として彼に興味を抱いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る