人間の所業
「あの後、私は四肢の切断を余儀なくされた。皮膚は焼け
己の境遇を語り終えた
「そりゃ、憎いだろうな。好きなだけ憎むが良い。だけどアンタのやってることは、それでも間違ってるんだよ!」
「ならば人間は正しいことをしてきたのか⁉ 一方が手段を選ばないというのに、もう一方は正義を守らなければならぬのか⁉ 我々マグスはな……ただ己が安全に生きていける未来を手に入れようとしているだけなのだ」
「だったらなおさら、こんな争いは終わらせないといけない!」
「ふむ……ならば人間が先に手を引けば良い。先に手を引いた者が敗れ、未来永劫苦しみ続ける……そんな戦いを終わらせることが出来るのなら……な」
「そ……それは……」
秀一に説き伏せられ、彼は言葉を失った。もはや話し合いなど通用しないことは、火を見るよりも明らかだ。御鷹がいくら声を荒げても、世界が変わることはないのだ。
そんな彼に追い打ちをかけるように、
「オレたちの受けてきた仕打ちについては、もう話したはずだ。そして、こうした社会問題は、今もなお存在し続けている。ここでオレたちが黙って白旗を上げりゃ、人間どもの蛮行が止まるとでも思ってんのか?」
止まるはずがない。誰にも、止められるはずがない。それは御鷹からしても、考えなくともわかることだった。
「確かに、話し合いで片付くと思っていた俺が甘かったよ。だけど、このまま戦い続けても、無駄な死者が増えるだけだ。結果を結ばない争いに数多の命を巻き込んで、人も、マグスも、アンタらの憎しみのせいで死んでいく。誰が……救われるんだよ……」
彼の言葉は、紅蓮の神経を逆撫でした。紅蓮は御鷹の胸倉を掴み、激昂する。
「そんなこと、オレたちだってわかってんだよ! そりゃ、輝かしい未来なんて訪れねぇかも知れねぇ! どう足掻いても、誰かが傷つくだろうよ! それでも、オレたちには戦う選択しか残されてねぇんだよ!」
凄い剣幕だ。彼女の真剣な眼差しに圧倒され、御鷹は怖気づきながら目線を逸らす。紅蓮はため息をつき、彼を降ろす。彼女は悲哀の交じった流し目で
「瑞葉はなァ……自分の親の顔を知らねぇんだ。人間の都合で繁殖させられて、人間の都合で殺処分されるマグス――――そのうちの一人がコイツだからだ。瑞葉はまだ強力な魔法を生まれ持ったから良かったけどな……大多数の養殖マグスはそうじゃねぇんだよ」
「……どういうことだ?」
「愛玩動物が病弱になりがちな理由を知ってるか? ブリーダーにいたずらに繁殖させられて、遺伝子を淘汰できねぇからだ。その上、コストの問題から、マグスの養殖には近親交配が用いられることも多くてな……」
「まさか……」
「大多数の養殖マグスは、生物的な退化を繰り返していくがゆえに、生殖機能以外の能力をほとんど持たねぇんだよ。連中はそれを不幸だと自覚することもなく、死ぬまで人間の管理下で生き続けるんだ」
そう語った紅蓮の握り拳は、小刻みに震えていた。この話を受け、御鷹はただただ戦慄を覚えるばかりだ。
「それが……人間の所業なのか……」
彼は頭を抱え、呼吸を荒げている。
「ああ、オメェからすりゃ耳の痛ぇ話だろうよ。だが、オメェにもそれなりの事情はあるだろう」
「あ、ああ……」
「今度は、オメェの戦う理由を聞かせてくれよ。マグスバスターさん」
紅蓮は御鷹の髪を掴み、彼の顔を持ち上げた。
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