無償の治療
翌日、
「気が付いたようだね……マグスバスターの諸君」
彼はそう言ったが、御鷹たちはこの状況をまるで整理できていない様子だ。そこで男は、彼らの身に何があったのかを説明する。
「リベリオン・マギの幹部……
この説明を受け、御鷹たちは自分たちが何らかの治療を受けたことを察した。御鷹はすぐにベッドから降り、彼に礼を言う。
「ありがとう。アンタのおかげで助かった。それで、アンタは一体……?」
「私は
「……無償で、治療してくれたのか?」
「ああ、そうだ。お前たちが一般人であれば、多額の医療費を要求するところだったが、今回ばかりはそうはいかない。何しろお前たちは、この世界の平和のために戦っている高潔なる戦士なのだからな」
何やら、彼はただ者ではなさそうだ。サンタンカモドキの毒を打ち消す血清を作った功績を持っているのも異様だが、それ以上に彼の無償の治療行為は何らかの正義感を匂わせている。
そんな彼に怪訝な表情を向けつつ、竜也は訊ねる。
「どうもありがとう、真上先生。ところで、僕たちに金が無くとも、
彼の言い分はもっともだ。見ず知らずの他人の善意を易々と信じることは、そう簡単なことではない。玲作は首を横に振り、己の信念を語り始める。
「私は医師免許を剥奪された身だが、より多くの命を救いたい心だけは奪われていないつもりだ。私の信念は、誰にも剥奪されないさ。私は、人間の未来を背負うお前たちを救うことが、無数の命を救うことに繋がると確信した。だから私は、お前たちにオペを施したのだ」
彼の語った志しには、彼自身の抱く正義感がにじみ出ていた。御鷹は少し不安を覚えつつも、彼に重大な質問を投げかける。
「アンタは、罪の無いマグスが不当な差別を受けている現状を、どう鑑みる?」
それはあまりにもリスクの大きな質問だ。相手の価値観次第では、敵対関係を生んでもおかしくはない質問である。
そんな彼に対し、玲作は一切の敵意を抱かない。
「もちろん、そういったマグスを救おうとする者がいても良いだろう。私は人間を愛し、人間を救うために医療の道を志した者だが、お前の正義を否定しようとは毛頭思わない。私はマグスを殺めるためでなく、人間を生かすために医者になったのだからな」
それが彼の答えだ。彼は人間の味方に徹する一方で、善良なマグスに対する敵意は特に持ち合わせていないようだ。御鷹は安堵のため息をつき、玲作を褒め称える。
「俺はずっと、ヒーローに憧れてきた。アンタの生き方もきっと、ヒーローの在り方の一つだと思う」
「ありがとう。そう言ってもらえると、オペを執行した甲斐もあったというものだよ。さて、私の役目はここまでだ」
「ああ、わかってる」
リベリオン・マギと戦っている彼に、病室に長居している暇はない。竜也はベッドから飛び出し、彼に指示を出す。
「一先ず、研究所まで戻ろう。五十嵐祐の魔法のことも、奏美さんに報告しなくてはならないからな」
「そうだな……竜也」
二人は玲作に頭を下げ、病室から立ち去った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます