四人目

 それからしばらくして、竜也りゅうやはテロの現場に到着した。夕日に照らされた戦場では、すでに御鷹みたかがリベリオン・マギの戦闘員と戦っている様子だ。彼は剣を振り回し、戦闘員の軍勢を次々と戦闘不能に追い込んでいく。戦いに明け暮れる日々の中で、彼の戦闘能力は着実に成長している。竜也はメタルミストを銃に変形させ、さっそくエネルギー弾を乱射し始めた。彼の乱入により、戦闘員たちは更に追い込まれていく。竜也は立ち込める砂煙の中から姿を現し、御鷹の方へと歩み寄る。

「……ミッション開始だ。僕の足を引っ張るなよ?」

「アンタと手を組むのは癪だが……背中は預けたぞ」

 ついさっきまでは敵同士だった二人も、共通の敵を前にすれば呉越同舟だ。不仲であるはずの彼らは妙に連携が取れており、戦闘員の集団は成す術もなく足下から崩れ落ちていく。ここまでは順調を極めていると言っても過言ではない。

「この調子でいけば、後五分もしないうちにミッションコンプリートだな」

「ああ、そうだな。だが……何か悪い予感がする……」

 どういうわけか、御鷹はこの戦況の中で、正体不明の悪寒を覚えているようだ。そんな彼らの前にリベリオン・マギの幹部の一人が現れたのは、まさにそんな時である。


「ウェーイ! 楽しそうなことやってるじゃん! ミーも混ぜてよん!」


 その場に姿を現したのは、黄緑色の頭髪をしたマグス――――五十嵐祐いがらしゆうだ。彼の足元からは、白い美しい花を咲かせた植物が生えてくる。この少年からただならぬ雰囲気を感じ取っている御鷹に対し、竜也は相変わらず好戦的な態度を示している。

「良いだろう。おそらく君を倒せば、ここにいる戦闘員も皆、戦意を喪失することだろう。違うか?」

「違いないね。でも、ユーごときがミーに勝てるかな?」

 竜也に劣らず、祐も強気な態度だ。今は敵に背を見せている場合ではない。御鷹と竜也は各々の武器を構え、彼の方へと駆け寄っていった。



 同じ頃、リベリオン・マギの拠点では、二人の男が話し合っていた。一方は組織の最高司令官である足利秀一あしかがしゅういち、もう一方は白い頭髪を持つ痩せ細った青年だ。

「ふむ……どうやらマグスウィルスの製造は進んでいるようだな」

「ヒヒヒ……このワタシの手にかかれば、人間どもを根絶やしにすることは実に容易い。しかし今はまだ、連中を泳がせておいても良いだろうねぇ」

「それはどういう意図だ? かおる

「マグスウィルスは最終兵器だ。人質という交渉材料を重んじるのなら、それこそこのウィルスは不特定多数の人間の命を人質に取るのに最適な武器となるわけだねぇ」

「ふむ……それもそうだな。しかし君は、相変わらず何を考えているかわからない男だ。会議にはあまり顔を出さないし、いつもこの私にすら見えない場所で手を回している」

 秀一は少しばかり、薫の動向に不信感を覚えているようだ。もっとも、薫が普段からあまり拠点に姿を見せないことを考えれば、疑いの目を向けられることも無理はないだろう。しかし、薫が己の身を隠していることには意味がある。

「今のところ、マグスウィルスを作る技術を持つマグスはワタシ一人だけじゃないか。だったら、このワタシが人間に暗殺されるようなことがあってはならない。だからワタシは慎重に動くようにしている。ボスからすれば、これは喜ばしい計らいだろう?」

「ふむ……だから君はあまり表舞台には立たぬのだな。まあ良い。いずれにせよ、祐の操る有毒植物を前にして、生きて帰ることの出来た人間はいない。流鏑馬御鷹やぶさめみたかが奴と交戦することになったのは想定外だったが、それもやむを得ない犠牲だな」

「さて、アイツらは本当に死ぬのかねぇ。さて、ワタシはここでお暇するよ」

 彼は秀一に別れを告げ、その場を後にした。

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