尋問

 あれから奏美かなみは、少々非人道的な手段を用いた尋問を試みた。彼女の手には注射器が握られており、その目の前では瑞葉みずはが吊るされている。彼女は眠りに落ちぬよう、座ることの出来ない状態を維持されているようだ。


 奏美は薬の説明をする。

「これはかつて、桜神靱おうがみじんという優秀な医師が開発した自白剤だ。アナタにはこれから、組織にまつわる情報を洗いざらい吐いてもらう」

 彼女はさっそく、瑞葉の腕に自白剤を注入した。次に彼女はメタルミストを操り、スタンガンを作り出す。何やら彼女は、薬物とスタンガンを併用することによって瑞葉を服従させるつもりでいるようだ。


 それから瑞葉の体には、自白剤の入った注射器を何本も突き刺された。彼女はその体に、幾度となく電気を流し込まれた。それでもなお、彼女は組織の情報を喋ろうとはしない。瑞葉は決まって、ユグドラームのへの信仰心を口にするだけだ。

「ユグドラームの意志のままに……」

「ワタシの質問に答えろ! アナタたちの目的はなんだ⁉」

「ユグドラームはマグスの未来を照らします……最後に笑うのは、マグスです」

「目的はなんだと聞いているんだ!」

 奏美は憤り、相手の腹に拳を叩きつけた。瑞葉は吐血するも、眼前の人間をただただ睨みつけるだけだ。そこで奏美はため息をつき、棚を漁り始めた。彼女が棚から取り出したものは、フォークのようなものが括りつけられた首輪のようなものだ。怪訝な顔をする瑞葉に対し、奏美はこの道具の説明を始める。

「これは異端者のフォーク。これを首につけられたものが眠りにつけば、フォークの先端はたちまち顎に突き刺さる。こうして睡眠を阻害されれば、アナタも冷静な判断力を失うだろう」

 さっそく、奏美は瑞葉の首に異端者のフォークを装着した。ここからは、互いの根気の勝負だ。無論、これは受刑者である瑞葉にとって分の悪い戦いではあるものの、彼女の根性は筋金入りだ。どちらが先に折れるかは、勝利の女神のみぞ知ることであろう。そんな状況下でも、瑞葉は決して自分を曲げはしない。

「ユグドラームは、貴方がたに天罰を下すはずです」

「アナタの信じる神は、アナタを助けてはくれない。少なくとも、信仰で科学を打ち破ることは不可能だよ」

 奏美はスタンガンを使い、何度も瑞葉の体を傷つける。このままでは、情報を吐き出すよりも先に、瑞葉の体がもたないだろう。


 その時、奏美のもとに緊急連絡が入った。


 奏美は通知音を鳴らすスマートフォンを取り出し、すぐに電話に出た。

「国立国会図書館付近で、リベリオン・マギによるテロが確認されました!」

「……すぐにマグスバスターを向かわせる。一刻も早く、人間たちを避難させるんだ」

「承知しました!」

「では、また何かあれば連絡を」

 彼女はすぐに通話を切り、竜也りゅうやの方へと目を向ける。竜也はため息をつき、彼女の意図を汲む。

「ミッションだな。行ってくる。それと、ハグはしないからな」

 早くもこの職場に適応しているのか、彼は要求される前にハグを拒絶した。奏美は少し残念そうな顔でウサギのぬいぐるみを拾い上げ、それを力いっぱい抱きしめる。続いて彼女は台所の前に立ち、食事を用意しようとする。竜也は眉をしかめ、彼女に言う。

「その怪しげな液体も、僕は飲まないからな」

 彼が黄土色の液体を拒むのも無理はない。そんなものを好き好んで飲む人間は、そうそういないだろう。そんな彼の方へと詰め寄り、奏美は熱弁する。

「飲んだ方が良い。ピーナッツはレシチンを含み、バナナはブドウ糖や果糖などの単糖類を含むことから脳を活性化させる。更にバナナはトリプトファンを含むことから、精神を安定させる効果もあり、ビタミンB群を有することから、先述の様々な栄養を効率的に……」

「僕を高血糖にする気か?」

 竜也は呆れ果てたようなため息をつき、研究所を後にした。

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