火災
御鷹の頭を過ったのは、一人の女の存在だ。
「
彼はすぐに炎の中に飛び込み、瓦礫を退かし始める。それに続き、
「もし奏美さんが逃げ遅れていなければ、今頃僕たちのところには火災にまつわる連絡が届いているはずだ。違うか?」
「俺もそう思う。とにかく、奏美を救出しないと!」
例え一番の親友の命を狙った相手でも、御鷹からすれば「救うべき命」の一つだ。彼は瓦礫を掻き分け、必死になって彼女を探す。奏美が見つかったのは、それから数分後のことである。
「御鷹か……」
瓦礫の山の中から、聞き覚えのある声がした。御鷹と竜也は力を合わせ、大きなコンクリートの板を引き剥がしていく。その下には、瓦礫の下敷きとなっていた奏美の姿があった。彼女は全身を酷く負傷しており、迅速な治療の要される有り様であった。御鷹が辺りを見回すと、その後方には
玲作は言う。
「……オペを開始する。一先ず、この女は私が預かろう」
御鷹たちは、彼の頼もしさを知っている。二人はこの闇医者に奏美の安否を託すことにした。玲作は奏美を車の助手席に座らせ、御鷹たちを後部座席に乗せる。目指す先は、彼が活動している病院だ。
*
翌朝、全身に包帯を巻いた奏美は、御鷹たちを病室に呼び出した。二人からしてみれば、聞きたいことは山ほどあるだろう。当然、奏美もそれを理解している。彼女の口から語られるのは、つい昨晩にあの研究室で起きた出来事だ。
「……昨日、ワタシたちの研究所は一人のマグスに襲撃された。赤い髪をした、義足のマグスだ。アタシは奴に惨敗し、研究所を焼き払われ、あの青い髪のマグスも連れ戻されてしまったよ。これでは、研究所の最高責任者として示しがつかないな……」
奏美は自嘲的な微笑みを浮かべていた。しかし今は、過ぎ去ったことを悔やんでいる場合ではない。
竜也は質問する。
「僕たちは研究所を失った。新しい活動拠点の目星はついているか?」
例え相手が怪我人であっても、彼は労いの言葉も無しに今後の計画を優先する。良くも悪くも、彼は仕事熱心な性格らしい。一方で、御鷹は筋金入りの人情派だ。
「今はまだ考えなくても良い。奏美の回復を待つのが先だろ」
彼がそう言い放つことは、この場にいる誰もが予想していたことである。奏美は愛想笑いを浮かべ、自分の想いを口にする。
「心配には及ばないよ。ドクター・マガミは優秀だ。ワタシはもう、今すぐにでも活動できそーだよ。とにかく、今は新しい活動拠点を確保しないといけないね」
仕事に対する熱意は、彼女も負けていない。そんな彼女のことを、御鷹は心配せずにはいられない。
「おい……本当に大丈夫か? 拠点を探すのは俺たちに任せて、アンタは……」
「それより、お気に入りのぬいぐるみが火災でボロ雑巾になってしまった。なあ御鷹、こんな時くらい、ハグをしてくれないか?」
「はぁ……アンタは相変わらずだな」
流石に、この状況でハグを断ることは出来ない。御鷹は渋々、彼女を抱きしめた。
玲作はある提案をする。
「活動拠点なら、ゆっくり探せば良い。それまでは、私の病院を貸してやろう」
相変わらずの優しさに満ちた男である。
「ありがとう。頼んだよ」
奏美は玲作の善意にあやかり、しばらく病院の一部を借りることにした。
話もまとまったため、御鷹にはもうここに留まる理由はない。
「……俺には帰る場所がある。また何かあったら、連絡してくれ」
彼はそう言い残し、病室を去った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます