交渉
その日の夜、リベリオン・マギの拠点では再び会議が開かれた。相変わらず、
最初に口を開いたのは、もちろん最高司令官である秀一だ。
「ふむ……瑞葉も祐も、上手くやってくれたようだな。でかしたぞ」
組織を動かす上で、飴と鞭の使い分けは重要だ。しかし司令官から直々に称賛を得てもなお、瑞葉は冷静だ。
「当然のことです。全ては、ユグドラームの意志のままに……」
相変わらず堅苦しい少女だ。そんな彼女とは対照的に、祐は相変わらず浮ついている様子だ。
「ウェーイ! ま、ミーにかかればこれくらいは余裕だよん。十人くらい人質を取れば、とりあえず充分かな?」
彼は鼻高々だ。そして会議の本題は、ここからである。紅蓮は頬杖をつき、秀一に訊ねる。
「で、今回の議題はなんだ? 人質の使い道か?」
「ああ、もちろんだ」
……何やら、彼女の予想は的中していたようだ。そこで彼女は、ある提案をする。
「そんなモン、オレたちの仲間の解放に決まってんだろ。離島の監獄じゃ、オレたちの仲間が百人近く飼い慣らされてるって話じゃねぇか。この際、全員釈放してもらわねぇか?」
「しかしだな……たった十人の人質で、百人もの同胞を解放することは出来るのか?」
「相手が交渉に応じるまで、人質の指を一本ずつ詰めていくんだよ。人間の指は一人につき二十本だから、二百段階に分けて人間どもを脅してやりな。それでもダメなら、次は腕と脚、その次は臓器を奪っちまえば良い」
テロ組織の重役を担っているだけのことはあり、この女の発想は常軌を逸していた。その案に、祐と瑞葉は賛同する。
「それ、めっちゃ良いじゃん。ミーたちを敵に回すとどうなるかっていう……見せしめにもなるしね!」
「私も
今のところ、異論は出ていない。後の全ては、最高司令官の決定に委ねられている。秀一は少し考え、結論を出す。
「紅蓮の案を採用する。さっそく明日、日本国民全員に警告をしよう」
この日の会議はすぐにまとまった。
翌日、秀一は日本国内のあらゆるチャンネルに対し、電波ジャックを行った。今、日本中のテレビには、彼の姿が映し出されている。
「人間たちに告ぐ。私は君たちの同胞を十人捕らえた。彼らを解放して欲しくば、離島の監獄に入れられたリベリオン・マギのメンバーを全員解放しろ。君たちが交渉に応じるまで、人質の指を一日につき一本ずつ切り落とす」
この警告は、日本中を震撼させた。無論、人間側にも、リベリオン・マギのメンバーの指を一本ずつ詰めていくくらいのことは出来るだろう。しかし、迂闊な行動は相応の危険を伴うものである。
秀一の警告が終わった直後、今度は一人の中年男性の姿がテレビに映し出された。彼は日本の現国家元首である。
「国民の皆さん、慌ててはいけません。ここは慎重に動きましょう。下手に彼らを刺激すれば、何が起こるかわかったものではありませんから」
そう――――猛威を振るっているテロリスト集団を挑発するような行動は、あまりにもリスクが大きいのだ。
この時、
「愛恋。人質を助けに行くぞ!」
「そうだね、御鷹。でも少し、慎重にいく必要があるね」
至極当然のように、彼らは人質の救出を計画する。そして、今は下手を打てない状況であることも、彼らは重々承知している。
御鷹は言う。
「先ずは、奴らの居城を特定しないとな」
リベリオン・マギの拠点は、現時点ではわかっていない。しかし愛恋には策がある。
「地理的プロファイリングの必要があるね」
「地理的……プロファイリング?」
それは御鷹にとって、聞き慣れない単語であった。
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