リベリオン・マギ

重役

 翌日、とある郊外にある怪しげなビルでのこと。その最上階には四体のマグスが集結し、大きなテーブルを囲っている。しかしどういうわけか、その場には一つだけ空席がある。そこに目を遣りつつ、四肢のない男は眉間に皺を寄せる。彼の全身は火傷のような痕で覆われており、片目は完全に潰れている有り様だ。

「ふむ……かおるは今日も欠席か」

 何やら、メンバーのうちの一人がこの場に居合わせないことは、そう珍しいことではないらしい。彼に続き、黄緑色の髪をした少年が発言する。

「相変わらず、何を考えているのかわからない奴だね。ま、一応アイツは戦力として優秀なわけだし、それで良いじゃん?」

 そう言い放った彼に対し、青い髪の少女は反論する。

五十嵐祐いがらしゆう。彼はユグドラームへの信仰心が足りていません。もっと真剣にマグスの未来を考えるべきだと思います」

 その顔つきは真剣だ。彼女がいかにユグドラームを信仰し、真面目に行動しているかがうかがえる。そんな彼女を諫めるのは、義足を着けた赤い髪の女だ。

瑞葉みずは。オレたちに仲間割れをしている余裕はねえ。オレたちリベリオン・マギの敵は、あくまでも人間だ」

「はい……申し訳ありません」

 青い髪の少女は意外と素直なようだ。何はともあれ、話の本題に欠席者の存在は関わってこない。


 四肢のない男はため息をつき、話を切り出す。

「それでは会議を始めよう。この場を取り仕切るのはこの私……足利秀一あしかがしゅういちだ」

 こうして四人の会議が始まった。祐は退屈そうに欠伸をし、秀一に訊ねる。

「いきなり会議って言われても、何を話せば良いのかわからないよん。人間の殺し方とか?」

 そんな彼を無視し、秀一は先ず、赤い髪の女に話を振る。

紅蓮ぐれん……何か報告はあるか?」

「マグスバスターが一人増えたようだ。だがオレたちのテロを妨害している一方で、不当に差別されているマグスを救出している様子もうかがえる。一先ず、泳がせておくか?」

「ふむ……面白い。そいつが何を考えているのかは定かではないが、先ずは様子を見るのも悪くはないだろう」

 意外にも、彼らは御鷹みたかに対する敵意をあまり抱いていないのかも知れない。あるいは、短絡的な思考に基づいた行動を是としていないのだろうか。いずれにせよ、御鷹が身の危険に怯える必要はあまりなさそうだ。しかし、祐は二人の案に異議を唱える。

「それじゃ甘いよん。そいつがリベリオン・マギの戦闘員を一方的に殺していったら、本末転倒じゃん? せめて人質くらい取っておかないと、ミーたちが防戦一方になるじゃん」

 もっともな言い分だ。瑞葉も深々と頷き、今度は彼に同調する。

「私も五十嵐祐の意見に賛成です。人質に優る交渉材料はありませんし、全てを有利に進められると思います」

 その案に、異論は出なかった。紅蓮は不敵な笑みを浮かべ、席から立ち上がる。

「面白ぇ。百人でも千人でも、オレが人質を取っ捕まえてきてやるよ!」

 大した自信だ。しかし今はまだ、彼女が動く時ではない。彼女を止めるのは、秀一の一声だ。

「下がれ、紅蓮。君は我が組織において一番の戦力だ……そう易々と使い潰したくはない」

「そうかい。ま、それが最高司令官さんの決定じゃ、しゃーねぇか」

 紅蓮は不服そうな顔をし、座席に座りなおした。秀一は残る二人の方に目を遣り、指示を下す。

「瑞葉……君が指揮を執り、新宿に集う人間を殺したまえ」

「はい、司令官」

「祐……君は混乱に乗じて、なるべく多くの人質を取れ」

「ウェーイ! 久々に暴れてくるよん!」

 生真面目な瑞葉とは違い、祐はやや浮ついている様子だ。そんな彼に呆れ果て、秀一は再びため息をついた。

「全く……紅蓮も祐も、遊びではないのだぞ……」

 その一言に対し、紅蓮は異議を唱える。

「そうそう……って、オレもかよ⁉ オレは真剣そのものだぞ!」

 その異議に同調する者は、その場には一人もいなかった。

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