星空

 収容所での一仕事を終え、御鷹みたか愛恋あれんはマグスたちの集落に戻った。せせらぎを奏でる河原を、二人は宛もなく歩き続ける。

「アンタの魔法って、珍しいよな。俺の見てきたマグスは、炎を操ったりとか、氷を操ったりとか、植物を操ったりする奴らばっかだったぞ」

「それは僕が白属性だからだよ」

「白属性……?」

「……どうやら、マグスの属性について説明する必要があるね」

 この先、リベリオン・マギと戦っていくにあたって、これは極めて有益な情報となるだろう。

「ああ、色々教えてくれ」

「マグスの多くは、赤、青、緑の属性に当てはまり、ごく少数が白属性を持つんだよ。赤属性は炎、青属性は氷や水、緑属性は植物を操ることが出来る。そして白属性は、それぞれ異なる固有魔法を持っているんだ」

「なるほどな」

 何やら、愛恋はマグスの中でも、少し特殊な部類に該当するらしい。愛恋は愛想笑いを浮かべ、己の信念を口にする。

「リベリオン・マギの連中は、人を傷つけることに魔法を使うけれど、僕は皆を守るために魔法を使っていくつもりだよ。マグスも、人間もね」

 その志には、御鷹の美学に通ずるものがある。

「俺も……正しいことのためにメタルミストを使っていくつもりだ」

「ふふ……僕たち、似た者同士だね」

「そうかもな」

 御鷹は安心感を自覚した。愛恋と行動を共にしている時、彼の心は確かに満たされるのだ。彼は少し早歩きをし、同志の前に出る。そして愛恋に背中を向けたまま、御鷹は話を切り出す。

「なあ、愛恋」

「なぁに?」

「俺は奏美かなみのやり方が気に食わない。だけど、リベリオン・マギの連中も許せない。だから、もしアンタさえ良ければ……」

「……?」

「俺も、ここで暮らして良いか?」

「……!」

 愛恋は驚いた。彼はすぐに言葉を紡げず、その場には数瞬の沈黙が生まれた。御鷹は己の後頭部を掻きむしり、背後へと振り向く。

「ダメ……かな?」

 彼はそう訊ねたが、愛恋には彼を拒む理由などない。

「ううん。大歓迎だよ」

「ありがとう」

「これからも色々、よろしくね。御鷹」

「ああ……こちらこそ」

 こうして、二人の共同生活が始まった。あまり人付き合いが得意ではない御鷹は、少しばかりぎこちない。そんな彼の姿を瞳に映し、愛恋は無邪気に微笑む。

「御鷹は良い人だから、きっとここの皆とも打ち解けるよ」

「あ、ああ……そうか」

「もう、表情が硬いよ。笑顔笑顔!」

「こ、こうか?」

 愛恋に言われるまま、御鷹は口角を上げてみた。これといって他意はなさそうだが、不自然で不器用な笑みだ。

「ぷぷっ……なぁにその顔!」

「笑うなよ、俺は真面目にやってるんだぞ!」

「真面目に笑おうとするからいけないんだよ。それ!」

 愛恋は御鷹の手を引っ張り、川の中へと飛び込む。

「うわっ⁉」

 御鷹は突然のことに唖然とし、そのまま愛恋と共に川の中へと転倒する。


 愛恋はすぐに立ち上がり、御鷹に手を貸した。御鷹は彼の手を借り、ゆっくりと立ち上がる。両者ともに、ずぶ濡れだ。

「あはは! 後でお風呂に入らないとね、御鷹!」

「なんだお前、無茶苦茶しやがって!」

 御鷹は両手を水面下に突っ込み、愛恋の方へと水をかける。

「それ、お返し!」

 負けじと、愛恋も御鷹に水をかけていく。こうして互いに水をかけ合っていくうちに、御鷹は自然と笑顔になっていった。



 その日の晩、二人は仮設住宅の屋根の上に腰を降ろした。彼らの頭上には、満天の星空が広がっている。愛恋は目を瞑りながらうつむき、それから我に返ったように夜空を仰ぐ。そんな彼を気遣い、御鷹は言う。

「アンタ、眠そうだな。もう寝るか?」

 その提案に対し、愛恋は首を横に振る。

「もう少し……君と話していたい」

「いくらでも話せるだろ。これからも、ずっと」

 御鷹はそう言ったが、夜中の二時を回るまで愛恋と語らい合った。

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