収容所

 数日後、とある収容所でのこと。突如、施設内には大音量のベルが鳴り響き、檻の中のマグスたちは目に見えてわかる程に錯乱していた。マグスは皆、首輪をつけられており、そこに高圧電流を流されているようだ。


 そんな凄惨な光景を前にして、二人の科学者が会話する。

「これは一体、何をしているのです?」

「人為的にPTSDを引き起こそうとしているんだ。つい最近、PTSD治療に向けた新薬が開発されてね。その新薬を試すには、PTSDを患った個体のサンプルが必要なんだよ」

「なるほど。だから被験体がベルの音に怯えるようにする必要があるというわけだな」

「そういうことだ」

 そう――――これは人体実験だ。何体かの個体は、すでに抵抗すら諦めている状態にある。そうしたマグスたちに目を向け、科学者のうちの一人は言う。

「学習性無力感……だな。回避不能の大きなストレスを与えられ続けた人間は、一切の抵抗を見せなくなると聞く。どうやらマグスと人間は、脳の作りが近いようだな」

 そんな推論を述べる彼でさえ、哀れな実験動物に対する温情は持ち合わせていない。このままでは、マグスたちの精神は再起不能にまで追い込まれるだろう。


 その時である。


「そこまでだ!」

 その場に御鷹みたかが乱入し、鉄の棒を振った。後頭部を叩かれた科学者のうちの一人は、すぐに気を失った。

「えいっ!」

 続けて登場した愛恋あれんが、もう一方の科学者の後頭部に手刀を食らわせる。こちらもすぐに撃沈され、その場に力なく倒れ込んだ。


 御鷹たちの仕事はここからだ。

「周囲を見張っていろ! 愛恋!」

「任せて!」

 相棒の指示に従い、愛恋は周囲を念入りに監視する。その間、御鷹はメタルミストを合鍵に変形させ、そこらかしこに並ぶ檻の鍵を次々と解錠していく。両者ともに、マグスを救いたい気持ちは同じだ。


 当然、二人を止めに入る者はいる。

「アナタはまた……!」

 それは、御鷹のよく知る女の声だった。彼が振り向いた先から、無数のエネルギーの弾が飛来してくる。

奏美かなみ……!」

 御鷹は咄嗟に身構え、鉄の防壁を作り出す。その背後から、彼の頭上を通り抜けるように飛び出してきたのは、一頭のライオンだ。ライオンは眼前の標的に飛びつこうとした。奏美は己の手元に剣を作り出し、稲妻のような挙動で猛獣を切りつける。この猛攻撃により変身の解けた愛恋は、全身から血飛沫を飛ばしながら彼女を睨みつける。この場においては、瞬きや息継ぎの猶予はない。この女と渡り合うには、全神経を研ぎ澄ます必要がある。


 奏美は言う。

「御鷹……アナタはマグスバスターだ。今アナタが手にしているものは、人間の民意に応えるためにあるものだ!」

 無論、それは御鷹の望む在り方ではない。

「他者を差別することが人間の望みだと言うのなら! この狂った世界が人間の望みだと言うのなら! 俺はそんな奴らのためには戦えない!」

「それなら、アナタは何故戦うんだ?」

「それがヒーローだからだ!」

 両者共に、譲歩する気は更々ない。同じ人間同士であろうと、マグスバスター同士であろうと、各々の正義がすれ違えば対立が生まれる。


 御鷹は愛恋の方へと目を向ける。

「やるぞ、愛恋!」

「その必要があるね」

 御鷹はメタルミスト、愛恋は魔法を駆使し、眼前の敵に立ち向かう。奏美は相変わらず様々な武器を使いこなしているが、今回は二対一だ。彼女は鮮やかな剣術や銃捌きを見せるが、それでも徐々に押されている。彼女に勝算が無いことは、火を見るよりも明らかだ。


 愛恋は変身を解除し、彼女に情けをかける。

「これ以上戦っていても、君に勝ち目はない。こんな必要のない争いに躍起にならず、今日のところは引き返した方が良いよ」

 その提案に対し、奏美はいささか不服そうだ。しかし彼女に選択の余地はない。彼女はメタルミストを引っ込め、すぐに撤退した。

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