同胞に非ざる同志

 数日後、奏美かなみたちのもとに、「リベリオン・マギがテロを起こしている」という緊急連絡が入った。任務に駆り出されたのは新入りのマグスバスター――――流鏑馬御鷹やぶさめみたかだ。彼はさっそくメタルミストを手に取り、テロの現場へと向かった。



 彼が現場に到着すると、そこではリベリオン・マギの一員たちが一頭の竜と戦っていた。ただし、この竜は炎を吐いたりはしない。竜は頑丈な爪や剛腕を駆使し、テロリストたちを蹴散らしていく。御鷹は状況を呑み込めなかったが、一先ず竜に加担してみることにした。彼はメタルミストを使い、テロリストの軍勢と戦っていく。襲い来る木々や氷を剣で切り落とし、炎が迫れば盾を作り、相手に隙が生まれれば銃を乱射していく。正体不明の竜と、一人のマグスバスターを前にして、テロリストたちに成す術はない。リベリオン・マギの手下たちは、すぐにその場から撤退した。


 テロリストたちが逃げ去るのを確認し、竜は一人の少年へと姿を変えた。彼はマグスだが、その物腰柔らかな雰囲気からは御鷹に対する敵意が見えてこない。むしろ、この少年からは有り余るほどの優しさが感じられるのだ。


 御鷹は訊ねる。

「何故、俺の目の前でマグスの姿になったんだ? 武器を持った人間の前で、自分の正体を明かすなんて……」

 何しろ、彼は奏美の言動や、港町の惨状を目の当たりにしてきた身だ。マグスにとって人間が警戒の対象であることは、想像に難いことではない。少年は屈託のない笑顔を浮かべ、彼の質問に答える。

「ただ相手が人間だからという理由で、それを敵と断ずる必要はあるのかい? 確かに僕はマグスだけど、人間と敵対する必要はないと思ってるよ」

 一口にマグスと言っても、色々な考えの持ち主がいるようだ。御鷹は安堵の籠った笑みを零し、自己紹介をする。

「……俺は流鏑馬御鷹。ついこないだマグスバスターになったけど、俺は悪いマグスにしか鉄槌を下さない。よろしくな」

「僕は神無月愛恋かんなづきあれん。マグスの過激派と戦いながら、善良なマグスを保護している。よろしくね」

 一先ず、彼らはその場から移動し、人目につかない森の中を突き進んでいった。



 周囲に誰もいないことを確認し、愛恋は話を切り出す。

「こんな場所まで来てもらってすまないね。何しろ、このご時世じゃ、マグスが表を歩くのは好ましいことではないからね」

 妙な説得力のある話だ。彼は愛想笑いを浮かべていたが、御鷹は深刻な表情を浮かべている。

「そうだな。この世界は、狂ってる。俺はそう断言する」

 御鷹はそう言いきった後、つい数日前の出来事を愛恋に話した。四肢を切り落とされたマグスたちがコンテナに詰められていたことや、彼らが新薬の実験台にされる予定だったこと、更には奏美がマグスを明らかに毛嫌いしていることなどだ。御鷹は一旦深呼吸を置き、己の理念を口にする。

「許せないよ。こんな間違った世の中を、俺は絶対に許せない。だから俺は、俺だけは、正しくあろうと思う。本来、人間は……もっと美しい生き物だったはずだと信じてるから」

 あの惨状を目にしてもなお、彼は人間の善性を信じていた。愛恋は彼の言葉に対し、理解を示す。

「わかるよ……その気持ち。僕も、リベリオン・マギの連中のせいで困っているんだよ。彼らが無益に人間を傷つけていくせいで、マグスの世間的なイメージは悪化の一途をたどっているからね」

 この荒廃した世界において、二人は似た者同士だ。一方は人間で、一方はマグスだが、彼らの心の距離は着実に縮まっている。


 愛恋はある提案をした。

「君を僕たちの集落に案内するよ。きっと、皆と仲良くなれると思うよ」

 その場所はきっと、砂漠のオアシスに等しい楽園だろう。御鷹は深く頷き、愛恋の後についていった。

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