マグスの人権

窃盗団

 数日後、御鷹みたかはとある港町を訪ねていた。街のパトロールもまた、マグスバスターの重要な仕事の一つだ。先日、この近辺でマグスによる殺人が起きたらしい。御鷹は周囲を見渡しつつ、港町を放浪していく。


 そうして宛もなく彷徨い続けた末に、彼は衝撃的な光景を目にした。

「……なんだこれは」

 彼の目の前で、無数のマグスが四肢を切り落とされている。彼らは皆、悲痛な叫びをあげつつ、必死に抵抗を試みている。無論、彼らは魔法を使えるが、その周囲は無数の軍人に囲まれている。そして四肢を切り落とされたマグスは、次々とコンテナの中に詰め込まれているのだ。


 御鷹は軍人の包囲陣を抜け、現場責任者と思しき人物に声をかける。

「アンタ一体……何をやっているんだ?」

 彼の瞳に宿る感情はただ一つ――――義憤だ。彼は人間を守るためにマグスバスターとなった身でありながら、マグスにも温情を抱いているらしい。責任者と思しき男性はため息をつき、事情を説明する。

「このマグスたちは、新薬の実験に使うんだ。だけど薬を試すだけなら、四肢は必要ないだろ? だからコンテナに詰めやすいよう、四肢を切り落としているんだよ」

 つまるところ、今ここにいるマグスたちに人権は無い。御鷹はメタルミストを使い、自らの手元に剣を生成した。

「コイツらが、一体何をしたってんだ……?」

「奴らは窃盗団だ」

「窃盗⁉ たかだかそんなことで、コイツらの命を弄ぶってのか⁉」

 御鷹の怒りは頂点に達した。彼は剣の切っ先を責任者の額に突き付けた。同時に、その場を包囲していた軍人たちは、一斉に銃口をこちらに向けてくる。


 しかし御鷹には、メタルミストがある。

「俺は……ヒーローだ!」

 彼はメタルミストで防壁を作り、無数の銃弾から己の身を守る。そして一瞬の隙を突き、彼は防壁を銃に変形させながら発砲する。一人、また一人と、被弾した軍人がその場で崩れ落ちていく。彼の正義を止められる者は、この場にはいない。

「……急所は外しておいた。さあ、マグスたちを解放しろ!」

 もはや責任者に、逃走経路はない。この男に出来ることはただ一つ、窃盗団を解放することだけだろう。


 その時だった。


 御鷹は小さな足音を聞き取り、背後へと振り向いた。彼の方へと駆け寄ってきたのは、刀を構えた奏美かなみだ。

「何をしている……御鷹!」

 彼女は刀を勢いよく振り下ろす。御鷹はメタルミストで盾を作り、すぐに受け身を取る。とても話し合いの通用する雰囲気ではなかったが、ものは試しだ。御鷹は会話を試みる。

「ここにいるマグスたちは、窃盗団だ。だが、四肢を切り落とされる挙句に人体実験に使われるような筋合いはない!」

「マグスに同情するな! 奴らはワタシたちの……人類の敵なんだぞ!」

「マグスだから見捨てるのか⁉ マグスだから助けないのか⁉ それが人間という生き物なのか⁉」

「世迷い事を……!」

……やはり話し合いでは片が付きそうにない。奏美は刀を振りなおし、御鷹に斬撃を叩き込んでいく。御鷹は猛攻撃に耐えきれず、徐々に後ずさりをしていく一方だ。このままでは、奏美を止めることは出来ないだろう。

「俺が……コイツらを守るんだ!」

 御鷹は盾を変形させ、大きな太刀を作り出す。彼はそれを振り回し、眼前の科学者に攻撃を仕掛けていく。奏美は呆れたようなため息をつき、少しだけ本気を出す。

「……これ以上時間を稼がれるとまずいね。ここで終わらせてもらうよ」

 彼女の顔つきは一変した。突如、彼女は俊敏な動きを見せ、御鷹を翻弄し始める。その圧倒的な強さを前にして、彼は抵抗すらままならない様子だ。その身に数多の切り傷を刻まれ、御鷹は徐々に疲弊していく。

「しばらく、眠っていろ」

 奏美はそう言い放ち、刀の背面を彼の後頭部に打ち付けた。御鷹は気を失い、その場に倒れ込んだ。

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