研究所
「先ずは自己紹介からだね。ワタシは
「俺は
二人が話している場所は、街外れにある小さな研究所だ。そこには、素人目では用途のわからない特殊な機械が何台も設置されており、コンピューターもたくさん置かれている。奏美は先ず、自分の素性を語っていく。
「ワタシは機械工学を専門とする技術者でありながら、過激派のマグスを倒すために働くマグスバスターでもある。特に、マグスにおる過激派テロ組織“リベリオン・マギ”との戦いに力を入れている」
曰く、彼女はマグスの魔法に対抗できる数少ない人材であるということだ。
「軍資金はどうしているんだ?」
御鷹は訊ねた。
「マグスバスターは公安職だ。善良な市民たちの税金によって、ワタシの生活が成り立っている」
「なるほど。それで、ここに俺を案内した理由は……?」
「御鷹……アナタにも、マグスバスターとして戦って欲しい。この街の……この国の治安のためにね」
奏美が最初に語ったことは自らの素性で、その次に伝えたのは簡潔な用件だ。唖然とする御鷹に構うことなく、彼女は話を続ける。
「マグスバスターに支給される武器は、ワタシの作った最高傑作……メタルミストだ。これは所有者の脳の働きと同期し、様々な機械に変形する代物でね。武器にもなるし、アタッシュケースにもなる優れものだよ」
自分の生み出したマスターピースについて熱弁した彼女は、妙に得意げな表情だ。何はともあれ、そんな優れた武器を手にしていれば、リベリオン・マギとやらを倒すことも不可能ではないだろう。
御鷹は少し迷ったが、すぐに決意を固める。
「……引き受けた。俺は昔っから、ずっとヒーローに憧れてきたんだ」
交渉成立だ。後はメタルミストを受け取るだけである。
その前に一つ、マグスバスターに加入したものに与えられる最初の仕事がある。奏美は両腕を大きく広げ、突拍子もないことを言う。
「それは良かった。さっそく、ワタシとハグをしよう」
それはあまりにも唐突な誘いであった。
「え……ハグって、抱擁のことだよな? 何故急に……」
「大脳皮質を有する生物は、スキンシップによってオキシトシンを分泌することが出来るからだよ。これによりストレスを軽減し、幸福感を得ることにより、自律神経を整えることが出来る。何しろストレスの多い仕事なんだ……ハグも重要な仕事のうちだよ」
それが彼女の持論だ。理に適ってこそはいるものの、これが妙な考えであることに違いはない。御鷹は呆れている。
「アンタ……変わってんな」
「それはどうかな。大脳皮質に数多くのニューロンを有している生物は、オキシトシンによって精神状態をマネジメントするんだよ。猿の赤子を使った実験でも、被験体は三大欲求以上に愛情を優先したんだ。哺乳類の精神を健全に保つには、愛情が不可欠というわけだ」
「は、はぁ……」
彼はあまり納得がいっていない様子だ。しかし、ここで抱擁を拒んで事を荒立てるメリットはない。御鷹は渋々、奏美に抱き着くことにした。そんな彼の背を撫でつつ、奏美は話を続けていく。
「その昔、フリードリヒ二世という人物が、人間の赤子を使った実験を行ったらしい。五十人の赤子と、その母親を集めた実験だ。母親は赤子とコミュニケーションを取ることを許されず、ただ赤子の衣食住を保証することだけを許可された」
「それで、どうなったんだ?」
「赤子は全て、七年以内に死亡した。人が人として生きていくには、愛情を育んでいかなければならないというわけだね」
……何はともあれ、彼女が愛情に強いこだわりを抱いていることは明白だ。もはや何らかの執着すら感じ取れるが、御鷹はそれを追及するようなことをしなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます