鉄の霧
数多の死骸の転がる街を、一台の車が駆け巡る。その道中で何体かのマグスがこちらに攻撃を仕掛けてくるが、反撃の手段はない。
やがて、彼の走らせる車が国道の前に差し掛かった時だった。
突如、灼熱の炎が車を包み込んだ。御鷹はすぐに運転席から飛び降り、後部座席に腰掛けている双子を引きずり出す。そして彼が双子を抱えて地面に転がったのも束の間、車は勢いよく爆発する。これで、彼の逃走の手段は絶たれた。彼が起き上がると、周囲は七体のマグスに囲まれている。絶体絶命だ。
その時である。
どこからともなく飛来してきたエネルギーの球体が、マグスたちを一斉に吹き飛ばした。御鷹が唖然とする中、辺りに立ち込める砂煙の中から、眼鏡をかけた女が姿を現す。
「……ここにいたマグスは、計七体。これで今日集まったメディカは、計十一個か」
先ほどまでマグスたちが立っていた場所に、死体は残されていない。その代わり、御鷹の周囲には七個の宝石が落ちている。女は銃をアタッシュケースに変形させ、宝石を拾い始めた。何やら彼女は、マグスの死後に生成される宝石を集めているようだ。続いて彼女は御鷹たちの方に目を向け、指示を出す。
「ワタシについてきて。アナタたちだけでは、助からない」
当然、御鷹はこの女の素性を知らない。しかし今は、この女にすがらなければ生き残れないだろう。御鷹は頷き、双子を連れて女についていくことにした。
それから女は、三人を守りながら戦っていた。彼女は鉄の霧のようなものを操り、それを銃や剣に変形させて戦っているようだ。彼女が炎や冷気、植物などに襲われそうになれば、鉄の霧は盾に変形する。マグスの軍勢に隙が生まれれば、彼女は武器を使って彼らを一掃する。その戦闘能力は常軌を逸しており、御鷹は眼前で繰り広げられる死闘に目を奪われるばかりだ。
「今日は死人も多いけど、メディカも多く確保できるね」
彼女はそう言いつつ、荒廃した街を淡々と突き進んでいく。向かう所敵なし――――と言ったところだ。
そんな彼女の無双も、そう長くは続かない。
「ユグドラームの意志のままに!」
女は背後からマグスの不意打ちを受け、鉄の霧で象られた剣を右手から滑り落としてしまう。彼女とて、武器を失えばただの人間だ。もはやマグスに打ち勝つ術はないだろう。
「しまった……!」
危ないのは彼女の身だけではない。このままでは、御鷹と双子の命も脅かされるだろう。御鷹は咄嗟に飛び出し、女の落とした武器を拾う。それから瞬きをする間もなく、彼は鉄の剣を勢いよく振る。その切っ先は偶然にも、眼前のマグスのこめかみに的確に切り傷をつけた。
「ユグドラームの……意志のままに……」
マグスはすぐに制服のポケットから注射器を取り出し、それを自分の腕に突き刺す。そんな彼が立ち上がろうとする間もなく、御鷹はもう一度剣を振り下ろす。
「なっ……⁉」
畳みかけるような攻撃に対応できず、マグスは斬撃を頭に受ける。彼はそのまま気を失い、一個の宝石に姿を変えた。
この一部始終を前にして、女は何かをひらめいた。彼女はすぐに立ち上がり、御鷹に声をかける。
「驚いた。アナタ、結構強いみたいだね。もし良かったら、ワタシについてきてくれないかな?」
その誘いに対し、御鷹は少し怪訝な顔をした。それでも彼には、この女についていく理由がある。
「そうだな。多分、俺一人で行動していても、この街で生き延びることは難しいだろう。とりあえず、話だけでも聞いておくよ」
彼は女の後についていくことにした。
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