来たれ! 超常現象研究部!!
だいたいにして鈴木先輩という人は、どうしようもなくエキセントリックな性格の人で。彼にとって興味深い事象が現れたなら周りの状況も顧みずに突き進んでしまう。そのせいで超常現象研究部の部員一同は、彼の思い付きや好奇心に振り回されるのが宿命なんやと思う。足場の悪い暗がりの中で、バランスを崩しながらも恐々と歩く部員たちを眺めるにつけ、つくづくそう感じる。
「……ここも行き止まりか」
中嶋くんが懐中電灯で壁を照らしながらため息混じりに呟いた。じめじめした岩肌は苔むしており、もうしばらく誰も触っていないのではないかと推測する。
「もう! ほんとどこ行っちゃったのあの男は!!」
凛花さんが憤りを隠さず踏み散らした地団駄の音が、狭い洞窟内に反響した。顔は可愛いのに、鈴木先輩のことになると遠慮がない人なのだ。
超常現象研究部は、研究対象をその名の通りの超常現象から、UMA、オカルト事件、そしてどこかの民間伝承に至るまでを幅広く網羅している。ある時は河童伝説を追い、またある時は未確認飛行物体を追う。忍者の末裔に会いに行ったかと思えば、モアイ像の謎を朝まで本気で生討論して配信する。そんなイかれた連中の集まりは、とにかく個性豊かで、退屈のしようがない。ここまで真面目に阿呆な事をやっている集団はなかなかお目にかかれるものではない。
私はわりと気に入っているんやけど、どうやら今回は少々ややこしいことになっている。
「もう置いて帰りましょうよ」
新入部員の佐藤くんまでもがそう漏らす。少しばかり冷めたような発言が多くて、ぱっと見には現代っ子という感じはするけれど、実は情に厚い子だ。
「だって、前回も鈴木先輩居なくなりましたけど! 僕ら一生懸命探し回ったじゃないですか! 結果、どこに居たと思います!?」
確かにあれは酷かった。部員たちが思い描いているであろう光景を、私も頭に思い浮かべる。
めずらしく普通のハイキングに出かけたかと思ったら、途中で横切った黒猫の姿を見るや否や「猫又だ!!」と叫んで追い掛け回し、そのうちに姿が見えなくなったのだ。すわ遭難かと眉をひそめながら捜索し、たどり着いた山頂で出くわしたのは当の鈴木先輩だった。「やあ遅かったね」と、のんきにバーベキューコンロなんか使って鍋焼きうどんを拵えていた。
ええ匂いをさせていたっけ。あれは旨そうやったなぁ、日本酒なんかあったら最高やったのにと思い出していると、佐藤くんが嫌そうな顔でこちらを見た。はいはい、そう睨まんと頼んますわ。
「とりあえず、いったん出ましょうか」
懐中電灯を持っている中嶋くんは次期部長との呼び声が高いこともあり、彼の提案には皆がすんなりと頷く。
部員たちは注意深く洞窟の中を歩いて戻る。ぴちょん、ぴちょん。どこかで水の漏るような音がしている。ひょおおと、通路の隙間か何かを細く吹き抜ける風は、まるでセイレーンの歌声のよう。雰囲気あるなぁと耳を澄ますこと数分、何かが聞こえた気がした。私が気付くのと同時に、誰からともなく足が止まる。
「……なにか、聞こえません?」
「……風の音……じゃ、ないな」
「どっちから?」
うーん……。と、これは。
「あっちだ!」
駆け出す部員たち。風の音に混じってわずかに聞こえていた「おーい、おおーい」が近くなる。果たしてそこには、なんかうまい具合に大岩に挟まれた鈴木先輩の姿があったのだった。なんやこれ、インディ・ジョーンズかい。
「いやぁ、参ったよ~」
岩と岩の隙間から慎重に引っ張り出された鈴木先輩が、照れたように頭を搔く。この人にも一応恥じらいがあるのね、なんて凛花さんが呆れたように言う。まったく、どこをどうしたらこうなるのやら。
そんな中で中嶋くんの視線は、鈴木先輩の無茶によって現れた祭壇ぽい何かにくぎ付けになっている。
「確か……これと似たようなものを、どこかで見た気がするんだけど……」
そうやねぇ、私もそう思う。
一方で、佐藤くんの視線はその少しばかり上の方にくぎ付けだ。私はその、佐藤くんの目線の先に向かってにこやかに手を振ってみた。振られた方はきょとんとしている。まぁ、無理もないやろう。
はぁ~い、私、この人たちが同じように壊した西の祠から出てきましてん。
悪い連中じゃないよってに、多めに見たってや~。
「…………増えた」
佐藤くんが疲労感たっぷりのリアクションで肩を落とした。
そうそう、“見える”人はこの佐藤くんだけやからな、覚えたってな。覚えんでええって顔してますけどな、あんなちっこい祠に永遠に縛り付けられとるよりも、この連中を見ている方がはるかに楽しいねん。
(本文の文字数:1,866字)
(使用したお題:「永遠」「鍋焼きうどん」「ニンジャ」「河童」「黒猫」「うた」「日本酒」「未確認飛行物体」「モアイ像」《叙述トリックの使用》)
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