第16話 メロとのひととき

 クリスマスはもともと、イエス・キリストの誕生日だ。日本じゃまったく趣旨の違うイベントになっちゃってるけどね。


 いつだったかキリスト教では、パンは神様の肉体とかなんとかという話を聞いたことがある。あいにくわたしはクリスチャンじゃないのでよくわかってない。


 けどもしかしたら、野生パンの発生に何か関係性があるのかな……。どうなんだろう?


 そんなクリスマスのことからいろいろ考えながら帰宅すると、「きゅっ!」と声がしてメロが玄関先まで飛び出してきた。とっても嬉しそうな様子に、こちらまで嬉しくなってくる。

「ただいま、メロ」

 わたしは外で付けっぱなしにしていた耳栓を外して、制服の胸ポケットに入れた。


「お出迎えありがとう。お昼にしよっか」


 今日は母さんも父さんも夜まで帰ってこない。その代わり二人が今日のパーティーのため用意してくれているチキンやおむすびが冷蔵庫に入っている。ジュースやお茶はわたしが調達しておいた。


 メロと一緒に、インスタントの醤油ラーメンのお昼を食べる。ラーメンの具材はゆで卵と刻みネギにしてみた。パーティーのためにお腹をすかせておきたくて、一食分をメロとわけっこして食べる。ラーメン美味しい、ズルズル。メロは横でちゅるんと食べる。


 洗い物や片付けをちゃちゃっと済まし、パーティーのセッティングを始める。テーブルにはトナカイともみの木をあしらったクロスをかけた。

 これは先日くるみと一緒に選んだもの。一緒にあれもいいこれもいいと言ってお店で選ぶのはとても楽しかった。最近「楽しい」を感じる時間が増えたと思う。


 後はサンタさんのぬいぐるみを飾って、親が用意してくれた料理をいつでも温められるようにしておく。飲み物だけは事前に部屋に持って行っておく。


 パーティーの準備にしては簡単すぎるほうだと思うけど、友達を家に呼んでクリスマスパーティーなんて初めてだから気分は浮き立っている。


「きゅうぅ~。きゅ~う~」


 わたしが鼻歌で流行りのポップスを歌っていると、真似してメロがふにふにと歌った。

 野生パンが歌をわかるかは知らないけれど、今は楽しそうなメロが見られればそれで充分だった。


「デパートでも元気にね、メロ」


 ぽつりと言葉が口をついて出た。年が明けたら、メロをデパートに帰す。その事実が一瞬だけ私の胸をつんと氷柱のように冷たく刺した。


 いけない、いけない。


 頭をぶんぶん振って雑念を追い払う。これからパーティーだ。水を差すようなことは考えたくもない。


 準備ができて一息ついたところで、インターフォンが鳴る。

 くるみが来てくれたのだ。


「どうぞ! チキンあっためるから上がって上がって!」

「お邪魔しまーす! 良かったら手伝うよー」

「きゅううー!」


 そうして始まったパーティーは、死んだ後も忘れたくないくらい楽しいひとときだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る