第15話 終業式
メロとのデートから数日して、わたしたちの街には雪が積もった。
ふわり舞い降りる白い雪って、天使からの贈り物みたいでなんだかすてきだ。
わたしは学校の廊下で、くるみと今度のクリスマスパーティーについて話し合っていた。
周りには雪への黄色い歓声、テストの追試に対する怨念めいたうめき声がさざめきあっていて雰囲気がお化け屋敷の中で人気アイドルのライブでもやっているような混沌溢れる状態になっている。けど耳栓が付けられた効果もあってわたしのメンタルは安定していた。
後ろから冬休みの予定合わせをする声が足音と共に近づいてきて、笑い声と共に通り過ぎていった。クリスマスと年末年始を控え、生徒も先生も用務員のおじさんも給食のおばさんも、誰もが妙に浮き足立っている。
「じゃ、美羽の家が会場でOK?」
「もちろん。聖なるクリスマスの夜、谷崎家はくるみ様を歓迎イタシマス」
わざとちょっとお堅めにかしこまった口調をわたしがすると、
「あ、その言い方おもしろーい! ていうかそんな夜遅くまでいないしー」と返ってくるのでくすくす二人で笑う。
あれからクリスマスパーティーの計画は、着々と進んでいた。
うちでやること。あまり遅くならないようにしないこと。くるみがケーキを用意してくれるので、わたしは自分の部屋をクリスマス仕様に飾り付けすることなど。
何かひとつ決まるたびに、わたしの心はウキっとジャンプするくらい楽しみだ。
「メロはお正月の初売りだしの日、デパートに返すの」
元日はデパートは休みなので、新年初売りだしの日はその翌日、二日の日だ。
「じゃ、初詣くらいまではメロちゃん一緒にいられるんだねー」
「うん。そしたらできるだけすぐデパート行くつもりなんだ……。あんまりぐずぐずしてると、ずっとメロを居候させちゃいそうし」
谷崎家で飼うという選択もできるにはできた。だけれどもうすぐわたしは受験で忙しくなるし、うちで飼うとなると基本は一日中家にいさせることになってしまう(野良パンと間違えられて連れてかれる可能性があるからね)。
だったらデパートのほうが自由が利くし、もしまたメロが調子を崩しても誰かしらが見つけてくれるだろう。
先日のビアガーデンと迷子放送の出来事から、野生パンの様子には目をひからせるよう従業員指導があったと、二回目のベーカリーのリモート診察で教えてもらえたし。
……仮に飼いパンになっても野生パンって呼んで良いのかな? 食べるパンとの区別があるから便宜上野生パンのままでいいらしいけど、そしたら違和感ばりばりだよ。
そんなこんなで、クリスマスイブ当日がやってきた。
わたしたちはまず、終業式をこなす必要があった。うちの中学は三学期制だから、長い休みに入るごとに終業式や修了式、通知表の配布や先生からの連絡・注意事項があったりする。
終業式の空気って独特だよなと思う。
長期休暇でみんな浮かれているはずなのに、いつもよりも静かというか、まったりしているというか。
夏休みに入る時はセミがたくさん鳴いていて、なんとなく田舎のおばあちゃんの家でスイカをかじってるようなノスタルジックさがあったんだけど、冬休みに入る今日はリアルで年末年始をおじいちゃんおばあちゃんの家で過ごす子たちの会話が聞こえる。年賀状やあけおめメール、気の早いお年玉の話も。
すでに終業式の式典自体は終わっている。
恒例の校長先生のもしかしたら有難いのかも知れない長いお話と、生徒指導部からの羽目外さないようにとの注意が全校生徒でぎゅうぎゅうの体育館であった。
高校はちゃんと座席がある講堂で集会をする所に行きたいな。結構疲れるんだよね、床に長時間体育座りしてるの。
とにかくわたしは、早く家に帰りたかった。
学校が嫌なわけじゃない。家でお留守番しているメロの顔が見たいだけだ。
先生方のお話も通知表もぜーんぶすっ飛ばしてさっさと帰宅したい。午後からのパーティーも楽しみだけど、まずはメロとお昼食べたい。
終業のチャイムが鳴り、先生が「良いお年をな~」とのんびり教室を出たのを合図にわたしはくるみに「また後でね!」と言い合ってるんるんとスキップしながら帰路についた。
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